独自の建築技術訓練校を運営するポラスグループの新しい職人の育て方とは

業界的な人手不足の課題に真正面に取り組み、若手の成長を促す環境作りに努めている企業にインタビューする本企画。今回は、住宅建築事業や不動産事業を展開しているポラスグループにお話を伺いました。

「一貫施工体制」にこだわるポラスグループ

ポラスグループのポラス建築技術訓練校の授業の様子

住宅建築事業などを手掛けているポラスグループのこだわりは「一貫施工体制」です。1969年の創業当時、不動産業界や建築業界では消費者に正確な情報を伝えることなく家づくりを進めてしまうケースが横行していたといいます。

一生に一度の買い物である住宅について、お客様が求める品質、精度で提供したい。そんな思いから、建築の主要な部分について責任を持って自社の社員大工で手掛けるビジネスモデルを推し進めているのです。

会社名 ポラスグループ ポラス株式会社
住所 埼玉県越谷市南越谷1丁目21番地2
事業内容 戸建分譲、注文住宅・建て替え、不動産/購入・売買、リフォーム、賃貸・土地活用・管理、分譲マンション(ポラスグループ)
設立 2001年2月21日(1969年創業)
公式ページ https://www.polus.co.jp/

自社の手で住宅を建築するとなると、重要になってくるのは人材の育成です。同社は実際に現場で働きながら若手人材に学んでもらうための独自の建築技術訓練校を運営しています。

同社の若手職人を育てる環境や社内の雰囲気について、人事部人材開発課主任の竹下聡史さんにお話を伺いました。

本日お話を伺った方
ポラス株式会社の竹下さん

ポラス株式会社
人事部人材開発課主任

竹下 聡史さん

若手職人を育成するための「ポラス建築技術訓練校」を運営

ポラスグループが運営するポラス建築技術訓練校で授業を受ける社員たち
▲若手職人を育成するための「ポラス建築技術訓練校」を運営している

編集部

建築業界の業界全体としての課題に人手不足があると思いますが、ポラスさんとしては現在の状況をどのように見ていらっしゃるでしょうか?

竹下さん

いくら建てたいと思っている人がいても、建てられる人がいなければ建物は建ちません。現在住宅の着工数は年80万戸ほどで推移していますが、数十年後には40万戸ほどに減っていく可能性があるとされています。

もちろん人口減少の影響もありますが、人口減少のカーブよりも職人さんの減少カーブの方が急勾配になってくると予想されます。

家を建てたくて住宅施工会社に相談しても、人手不足で待っていただくという状況がこれから増えてくるでしょう。施工をお待ちいただくということはお客様が離れる原因にもなります。

そういった意味で、これからは職人を確保し施工力を維持できる会社が生き残っていくことになるのではないでしょうか。

編集部

そういった業界の状況の中で、ポラスさんでは独自の建築技術訓練校「ポラス建築技術訓練校」を運営されています。そちらについて詳しく伺わせてください。

竹下さん

ポラス建築技術訓練校は職人を自社で育成していくために、1987年に開設されました。開設当時から弊社としては後々職人さんが不足してくるだろうという考えがありましたし、自社でより良いものを作っていくためには技能を持った若手人材を育てる必要があります。

訓練校には大きくわけると「建築施工系木造建築科」「建築内装系インテリアサービス科」の2つの科があります。

建築施工系木造建築科については大工職について学び、建築内装系インテリアサービス科については電気やクロスといった内装をメインに手掛ける多能工と呼ばれる方を育成する科だとイメージしていただくと良いと思います。

編集部

ポラスさんは40年ほど前から業界について問題意識を持ち、先行投資を続けて来られたのですね。

給料をもらいながら学べるのが特徴、県のお墨付きをもらっているカリキュラム

ポラスグループが運営するポラス建築技術訓練校で実施されている実践的な授業の様子
▲ポラス建築技術訓練校の学生は一人の社員として給料をもらいながら現場で実践的に学んでいく

編集部

ポラス建築技術訓練校にはどういった方が入学されるのでしょうか?

竹下さん

ポラス建築技術訓練校では高校、専門学校を卒業したばかりの新卒の学生さんを受け入れています。カリキュラムについてはゼロから教えていくという考えのもと組まれていますので、建築系以外の学科を卒業した学生さんも入学されます。

以前はできる限り建築学科卒業の学生さんを優先していたのですが、少子化や大学進学率の上昇という社会的な背景もあり、特に縛りを設けることなく受け入れています。

今では機械系や電気系出身でものづくりに興味がある方や、普通科出身でも体を動かして大きなものを作りたいという志を持った学生が入学しています。

編集部

カリキュラムについて少しお話がありましたが、実際にはどんな内容になっているのでしょうか?

竹下さん

弊社の訓練校では実際の現場を使った実践的な授業を実施しています。また、埼玉県に届け出を出したうえでお墨付きを頂いている訓練校でもあるのです。

ですので生産概論、計画概論、製図、構造力学概論など大学の授業に近い形で厳密にカリキュラムが組まれています。年間通して1500時間授業を実施している形ですので、一つの大学や高校のようなイメージを持っていただければと思いますね。

編集部

現場で実践的な学びを得られることも特徴の一つだと思いますが、ポラス建築技術訓練校の最大の特徴は何でしょうか?

竹下さん

ポラス建築技術訓練校の最大の特徴は、あくまで訓練校生は弊社の社員であるということです。ですので、訓練校の学生にも給料が出ますしボーナスも支給しています。働きながら学ぶという体制を取っているのです。

訓練校に入学される学生さんは、弊社のグループ会社であるポラスハウジング協同組合という会社に入社することになります。その後、1年間の出向という形で訓練校に入学するというイメージです。

最初の1年間は社員寮に入寮し、大工や内装技術の基礎を学びながら必要な資格を取得してもらっています。

編集部

あくまで学生さんも一人の社員だということですね。

最短5~6年で一人前の社員大工に、誇りを持って働ける環境

真剣な表情で作業に当たるポラスグループの社員

編集部

ポラス建築技術訓練校生で1年学んだ後のキャリアの歩み方について伺わせてください。

竹下さん

訓練校で学んで無事資格が取得できれば、出向が解除されてポラスハウジング協同組合に戻り、現場で経験を積んでもらいます。早い方で5~6年目に弊社の社員大工になるというイメージです。

ポラスグループは年間約3000棟の住宅を手掛けさせていただいておりますが、品質が問われる躯体のフレームや電気配線工事、クロス工事といった重要な部分はポラスの大工が手掛けております。

訓練校を卒業した若手社員もフレーマーと呼ばれるポジションで、その部分に関わっていくのです。

その後はセットアッパーというポジションに移り、外部造成を担当してもらいます。そして最終的に社員大工として独り立ちしてもらうのです。

編集部

しっかりとした育成プログラムのもと、職人さんが育っているのですね。ご活躍されている社員大工さんも多いようにお見受けします。

竹下さん

弊社には2023年に「優秀施工者国土交通大臣顕彰式典」にて全国で121名しかいない建設ジュニアマスター(青年優秀施工者不動産・建設経済局長顕彰)に選出された社員もいます。また、職人さんが技能を競う技能五輪というものもありまして、弊社の社員大工も大勢がエントリーしています。

お客様により良い家を届けられるように自分の技能を高めたいと考えている社員ばかりですね。

編集部

そういった賞を受賞することによって社員大工さんにどのような好影響が生まれるのでしょうか?

竹下さん

賞を受賞することで、やはりより自分の仕事にプライドや誇りを持てるようになるのではないかと思います。社員がプライドや誇りを持ち、お客様を大切にする弊社の企業理念を理解しているからこそ、良い家づくりができるのです。

一般的な大工さんだとお客様に接することは多くはないでしょう。しかし、お客様は実際に現場に来て大工さんの話を聞いて納得感や満足感を得ます。弊社の社員大工はお客様の気持ちに寄り添える方ばかりです。

編集部

ポラスの社員さんはみなさん誇りを持って働いていらっしゃるのですね。

「目で見て盗め」ではない、丁寧に教え込む指導方法

ポラスグループが運営するポラス建築技術訓練校で授業を受ける社員たち

編集部

ポラスさんの社内の雰囲気について伺わせてください。

竹下さん

ポラスでは先輩社員が後輩社員にしっかり声がけをする雰囲気がありますね。訓練校を卒業した後は先輩とチームを作って業務を進める形を取っています。

大工としての技術を磨いていく上では、やはり先輩後輩の信頼関係が重要になってきます。先輩後輩でしっかり関係を築くことを弊社では大切にしているのです。

後輩の指導に当たる社員は、技能五輪で活躍している人材も少なくありません。

「わからなくてできないから全て教えてください」という姿勢ではなく、やはりそこにはプロとしての姿勢は問われてきますね。

編集部

現場に立ってしまえば、たとえ年数は浅くてもプロとしての意識を持ちながら働く必要があるということですね。

一般的なイメージですが、職人は技術を見て学ぶという姿が想像されます。そのなかで後輩に声がけをしながらしっかり教えていくというのは業界的に珍しい姿勢ではないのでしょうか?

竹下さん

仰る通り、建築業界の後輩指導の方法は「目で見て盗め」というケースが一般的だといえるでしょう。

後輩は先輩に丁稚奉公のような形でついていって、荷物運びなどの雑用をこなしながら先輩の技術を見て独学で覚えていくというのが多くの方にとっての職人のイメージなのではないでしょうか。

昔ながらの指導方法は今後難しくなるだろうという考えがあったのも、ポラス建築技術訓練校が立ち上がった背景の一つに挙げられます。目で見て盗むというだけでは今の時代の若い方には通用しませんし、果たして独学で覚えた技術が本当に正しいのかという問題もあります。

弊社では、専門的な知識やスキルをしっかり教えてこそ優秀な技能者が育つと考えています。全国どこにいっても通用するような、言ってしまえばポラスを辞めたとしても自分の手でご飯を食べていけるような職人を育てることが、弊社の最大の目標なのです。

編集部

これまでの職人の世界とは一線を画すような指導方法を取られているのですね。

トップレベルの家づくり、街づくりの担い手を求む

ポラス株式会社の竹下さん
▲「ものづくりに興味関心がある方は心置きなくご活躍できる環境がある」と話す竹下さん

編集部

最後にポラスさんに興味を持っている読者に向けてメッセージをお願いいたします。

竹下さん

ポラスはグッドデザイン賞を21年連続、通算で83作品受賞しています。ここ20数年でみると、大手メーカーにも負けない受賞ペースだといえるでしょう。

それだけ日本トップレベルでものづくりをしている会社ですので、弊社で大工として働くことでトップレベルの家づくり、街づくりのつくり手なれると考えています。

また、働く環境についてはしっかり整っていると自負しております。ものづくりに興味関心がある方は心置きなくご活躍できる環境がありますので、「ものづくりが好き」という熱い思いを持った方はぜひ弊社の門を叩いていただければと思います。

編集部

ものづくりが好きな方がしっかりと段階を踏みながら成長できる環境にあると感じました。本日はありがとうございました。

■取材協力
ポラス株式会社:https://www.polus.co.jp/
採用ページ:https://www.polus.co.jp/recruit/