新事業や企業との協働にも取り組む「ものづくりのまち」長野県岡谷市役所での働き方

新採用や一般企業から中途入社する職員など、若手が活躍できる職場づくりを進め、SDGsにも熱心に取り組む企業や自治体にインタビューする本企画。今回は、長野県岡谷市にお話を伺いました。

世界レベルの緻密なものづくりで発展。長野県岡谷市とは

岡谷市は、長野県のほぼ中心に位置する人口約4万5,000人のまちです。長野県最大の湖である諏訪湖や緑豊かな塩嶺王城県立自然公園、八ヶ岳連峰に囲まれており、遠くには富士山を望むこともできます。戦後には、時計やカメラなど精密機器の製造が盛んになり、その部品を加工する技術の高さから「東洋のスイス」と呼ばれるようになりました。

岡谷市で、ものづくりを続ける各企業の技術向上は絶えず進んでおり、現在では精密加工技術で培ってきたノウハウが、医療や航空機器製造、クリーンエネルギー自動車などに欠かせない、超微細加工技術に応用されています。

自治体名 長野県岡谷市
本庁舎住所 長野県岡谷市幸町8-1
公式ページ https://www.city.okaya.lg.jp/
index.html

今回は、工業振興課で主幹を務める小坂秀文さんと、総務課で主査を務める塩入康敬さんに「ものづくりのまち」をさらに進化させる取り組みについて、また職員が長く活躍できる職場の環境や制度について、お話を聞かせていただきました。

本日お話を伺った方
長野県岡谷市工業振興課で主幹を務める小坂秀文さん

長野県岡谷市
工業振興課主幹

小坂秀文さん

長野県岡谷市総務課で主査を務める塩入康敬さん

長野県岡谷市
総務課主査

塩入康敬さん

未来へつながる技術を継承。手厚い支援で工業振興に注力

産業振興の拠点施設 テクノプラザおかや

編集部

岡谷市さんでは、地元企業様への支援として、どのようなことを行っていますか。

小坂さん

「ものづくりのまち」をさらに盛り上げていくため、基幹産業である製造業など市内事業者に、様々な支援事業を行っています。

例えば、人材確保を目指す事業者さんに、一般の就職情報サイトへの掲載料を助成したり、採用コンサルティングに係る費用、採用情報を含むホームぺージの新設、改修費用への助成など支援を行っています。

編集部

それによって、人材確保が成功したという事例もあるのでしょうか。

小坂さん

補助金を使った採用活動をきっかけに、技術職の方はもちろん、営業職など幅広い人材確保に繋がり、Iターン、Uターンに繋がったというケースもあります。大きな成果が出ています。

また、今年度からの新規事業として、「家族にもやさしい職場づくりでUIJターン強化事業」をスタートします。市内企業を対象に、岡谷市とコンサルティング企業が伴走支援して、働く人やその家族にもやさしい職場づくりを推進し、その企業の採用情報をUIJターン希望者などに様々な方法で発信して人材確保に繋げ、更には移住施策と連携して岡谷市への移住促進を図る事業です。

編集部

人材採用のほかに、企業様への支援としてされていることがあれば、お教えください。

小坂さん

例えば、DX化とゼロカーボンの推進に補助金のメニューを用意して支援しています。具体的には人手不足への対応、デジタル化の推進に向けた設備投資等に要する経費の補助や、温室効果ガス排出量の把握に係る経費、及び削減に向けた設備投資等の補助があります。そのほかにも新技術・新製品の開発等に必要な経費を補助するなど様々な支援を実施しています。

編集部

学校や団体などに向けて、ゼロカーボンや防災教育、子育て支援、産業振興など様々なメニューの出前授業を実施していらっしゃるのを公式サイトで拝見しました。市民の方々への周知も積極的に行っているのですね。

「ものづくりのまち」の精神を、子どもたちに伝えたい

編集部

岡谷市さんにある「テクノプラザおかや」という施設について、教えていただけますか。

小坂さん

テクノプラザおかやは、大型の工作機械なども搬入可能な施設で展示会、講演会、会議、研修、商談などができるスペースを提供するほか、リモートワークに利用できるコワーキングスペースも備えた産業振興の拠点施設です。また、テクノプラザおかやでは、子どもを対象にした「ものづくりフェア」を毎年2月に開催して、小さな頃から「ものづくり」に親しむ機会を提供し、将来のものづくり人材の育成を進めています。

編集部

「ものづくりフェア」とは、どのようなイベントですか。

小坂さん

子どもたちに「ここ岡谷市で、将来ものづくりを担う人材に育ってほしい」という思いで開催しているイベントです。ものづくりの楽しさを伝えて、種まきというか、早いうちからものづくりに興味を持ってもらえたらと思っています。

「ものづくりファクトリー」という体験では、市内企業の技術を一つ一つ体験しながら、製品を組み立てていき、多くの技術を使って一つの製品を完成させるもので、達成感や喜びを実感してもらえる仕組みになっています。

熱処理やアルマイト処理、様々な金属加工、ゴム製造、電気部品製造など様々な技術を持つ7社の市内企業が参加して実施しました。子どもたちは、各企業のコーナーをひとつずつ回って技術の説明を受けながら、加工や組み立て作業を体験して最終的にスマホスタンドを完成させます。

編集部

なるほど。お子様たちは喜ばれたでしょうね。

小坂さん

子どもたちは、楽しみながらLEDをハンダ付けしたり、熱処理、きれいな色をつけるアルマイト処理やアルミを曲げる板金加工を学びました。ネジ穴の加工、カシメ、ゴム部品の切り抜きなどいくつも加工技術を体験しながら自分だけの宝物をつくっていました。

実際に、岡谷市では企業同士がお互いに加工を発注し合って、製造工程を重ねながらひとつの製品をつくりあげています。そのような、ものづくりをしていく上での「助け合い」みたいなものも、子どもたちに感じてもらえたら嬉しいです。

編集部

岡谷市内には、製品の製造にかかわる重要な技術を持つ企業が、たくさんあるということですね。様々な技術を子どもたちが身近に体験できるのは、岡谷市さんだからこそのイベントなのだなと思いました。

DX化、ICT化で効率的に業務改善。働きやすい環境づくりが進む

塩嶺から望む岡谷市と諏訪湖

編集部

岡谷市役所さんの中で業務改善などの取り組みはございますか。

塩入さん

ペーパーレスを進めています。これまでは職員へ渡す給与明細や源泉徴収票は紙に印字されたものでした。様々な課に配属されている、900人弱の職員ひとりずつに、給与明細などの書類を配布する作業は、それだけで3時間は必要でした。

それが、2023年4月からデジタル形式に移行しています。簡単に職員一人ひとりがスマホで給与明細などを確認できる仕様になり、大きな業務改善ができました。

会議の議事録は、AIで自動的に書き起こしています。便利なツールを使って業務の簡略化を進めています。

編集部

そのようなデジタル化やICT化は、市民の皆様へのサービスにも影響しているのでしょうか。

塩入さん

これから加速していく変革だとは思います。マイナンバーを使用した電子申請などが浸透していくでしょう。

予算や時間が必要ですから、いきなりの改革は難しいですが、市役所のDX化が進めば、市民の皆様も効率的に書類の手続きなどができるようになると思います。

子育てと仕事を両立できる「部分休業制度」あり。気軽に使える雰囲気が長期勤続を後押し

編集部

岡谷市役所さんの、働く環境として特徴的なものがございましたらお教えください。

塩入さん

岡谷市だけではなく、他の自治体でも一緒だとは思いますが「部分休業」という制度があります。小学校就学までの子どもを養育する職員が、1日2時間を超えない範囲で、休業できるというものです。

例えば朝、職員が子どもを保育園や幼稚園に連れていく日や、ちょっと病院に寄りたいとき、夕方早めのお迎えに行くという場合に活用できます。育児と仕事を両立するために、とても便利な制度です。

編集部

実際にその制度を利用している職員さんがいらっしゃるのですね。

塩入さん

遠慮なく利用できる制度として認知されていて、現在2名の職員が利用しており、これから「制度を利用したい」と手を挙げている職員も2名ほどいます。

市外から勤務している職員は、子どもの送迎に加えて渋滞があると、ほかの職員と同じ出退勤時間では厳しいという現状もあります。育児を理由に仕事をあきらめるのではなく、時間を有効活用しながら長く勤務して、キャリアを積んでもらえたらと思っています。

編集部

子育ても仕事も無理せず続けられる制度を、気軽に利用できる環境があるのですね。制度を利用する職員の方は今後も増えそうですね。

諏訪湖のきれいな水、豊かな緑。遊びを満喫できるスポットも

LAKEHOOD OKAYAの桟橋の上にサイクリング用の自転車が並んでいる様子
▲自然を満喫しながら自転車で諏訪湖の周囲を1周する「スワイチ」が人気。県外からのサイクリストも多く訪れている

編集部

岡谷市さんの中で、最近話題になっていることや魅力的なスポットはございますか。

小坂さん

「諏訪湖をもっと遊びつくそう」と湖の上につくられた施設「LAKEHOOD OKAYA(レイクフッドオカヤ)」が人気を集めています。岡谷市の企業が運営しているもので、桟橋や展望デッキ、カフェがあります。湖上での演奏会や、沖に出てワカサギ釣りが楽しめるそうです。

また、4月1日には、諏訪湖をサイクリングやジョギングで1周することができる「諏訪湖周サイクリングロード」が全線開通しました。諏訪湖を眺めながら1周16キロを颯爽と走るランナーやサイクリストが沢山訪れてくれるといいですね。

あと名産としては、パリッとした皮と甘辛のたれで食べる鰻が有名です。数多くのお店が個性ある鰻を提供しています。

編集部

鰻は静岡でも有名ですが、岡谷市さんの鰻は、それとはまた違うタイプなのですね。

小坂さん

鰻の調理には、背開きで蒸して焼く関東風、腹開きで蒸さずに焼く関西風があり静岡にはその両方があるそうです。岡谷市の鰻は、背開きで蒸さずにじっくり焼くので関東風・関西風のミックスでこれが大きな特徴です。

岡谷市には鰻の都市伝説もあります。鰻が上にのぼっていく習性を、のぼり龍になぞらえて、証券会社など金融機関の新入社員が「株価もうなぎのぼりになりますように!」と岡谷市に鰻を食べに来ているそうですよ。

編集部

そのような都市伝説があるのですね。諏訪湖の自然の恵みを存分に感じられる新しいスポットや、美味しい名産があることがよく分かりました。

学生さんのスケジュールを考慮し、インターンは通年実施

編集部

岡谷市役所さんではどのようなインターンを実施されているのでしょうか。

塩入さん

学生を対象に、通年で行っています。時期に制限なく、いつでも参加できるのが特徴です。

事務・土木技師・建築技師・保健師・栄養士・保育士などの職種で応募を受け付けています。

編集部

これまでにどのような学生さんがインターンに応募してこられたでしょうか。

塩入さん

通年で実施している岡谷市ならではなのですが、お盆の時期に「インターンがしたい」という学生さんを受け入れました。一般企業は長期連休に入っている時期なのですが、市役所は開庁していますので、学生さんのスケジュールにちょうど合っていたようです。学生さんも喜んでいたのでよかったですね。

編集部

お盆しかスケジュールが空いていないという場合もあるでしょうから、学生さんは嬉しかったでしょうね。

スケジュール優先で選んだインターン先とはいえ、学生さんは将来目指す姿をイメージできたり、インターンで業務を経験したり、そこで市民サービスのありがたみにも気づいたのではないでしょうか。

人物重視の採用。頑張ってきたことやこれまでの経験を聞かせてほしい

長野県岡谷市工業振興課で主幹を務める小坂秀文さんと総務課で主査を務める塩入康敬さん
▲岡谷市での採用について詳しく語ってくれた小坂秀文さんと塩入康敬さん

編集部

岡谷市役所さんの採用では、どのようなポイントを重視されているのでしょうか。

塩入さん

人物重視の採用をしており、特に職務経験者の採用試験では受験者に記入してもらうエントリーシートの内容をしっかり読ませていただいています。

一般の新卒者では学生時代に苦労したけど頑張って取り組んできたこと、職務経験者では一般企業で培ってきた業務経験などをポイントにしています。

筆記試験、書類選考後に2回から3回面接を行い、コミュニケーションの取り方や人柄を確認しています。

編集部

筆記試験はどのようなものですか。

塩入さん

一般的な新卒者の採用試験は1回目に筆記試験があり、公務員試験の教養試験のみを実施しています。法律や経済、行政に関わる専門試験を行っていません。職務経験者の採用試験では、公務員試験の教養試験等は実施せず面接を重要視しているため、一般企業への転職と同じような感覚で受験できると思います。

編集部

公務員試験対策用に、法律などを新たに覚えたりしなくてもよいのですね。岡谷市のために働きたい方や、企業で働いた経験を活かしたい方が応募しやすいですね。

一般企業での経験が強みになる。市の活性化に尽力してくれる人材を募集

編集部

一般企業で勤務したのちに、岡谷市役所で働いている職員の方も多いのですか。

塩入さん

一般企業で5年、10年と経験を積んだあとに、岡谷市役所に転職する人が増えています。中途入社した職員は、一般企業で培ってきたコスト感覚や商談のセンス、マーケティングのノウハウなどを業務に活かしています。

数字を見て改善提案や企画立案をしてきた経験や、折衝能力、交渉能力を持っているのは、転職の際の強みになると思います。公務員の世界では、マーケティング調査を行うことが少ないので、そのような方が入庁してくれると、若手のいい刺激にもなると思います。

小坂さん

私も一般企業から中途で岡谷市役所に入庁したうちのひとりです。市役所では、市内の様々な企業と協力しながら、産業振興施策の立案や、それを実施するため各所への働きかけに取り組んでいます。

業務中には、企業の担当者と打ち合わせをしたり、企業が抱える課題や、大切にしている思いを聞かせてもらったりします。色々な情報を収集しながら、様々な技術を持つ企業と協働し、新しい事業をつくっていく仕事は、発見の連続でワクワクします。岡谷市の技術力や企業のPRをサポートしていく仕事に、とてもやりがいを感じています。

編集部

具体的に、どのようなワクワクがあるのか教えていただけますか。

小坂さん

例えば「岡谷市の企業とタッグを組んで新事業を起こしたい」というお声もいただいていて、地元の高校、大学はもちろん、市役所や学生、企業が協力して地域課題を解決しようという企画の提案など首都圏の大学からもアイデアが届いています。

塩入さん

岡谷市役所での仕事は、色々な人との出会いがあったり、様々な企業や地元の魅力を知ることのできる変化に富んだ仕事です。公務員として岡谷市に貢献したいと考えている方は、ぜひ応募してほしいと思います。様々な経験を持つ方と、一緒に仕事ができたらと思っています。

編集部

中途で入庁し、活躍している職員の方がたくさんいらっしゃるのですね。岡谷市役所さんは、一般企業での経験を存分に活かせる職場なのだということが分かりました。本日はありがとうございました。

■取材協力
長野県岡谷市:
https://www.city.okaya.lg.jp/index.html
採用ページ:
https://www.city.okaya.lg.jp/soshikikarasagasu/somuka/637/150/6721.html