市に新たな風を吹かせる、小田原市役所の若手・女性活躍の秘訣

若手の力を活かしてこれまでにない取り組みを進める企業や自治体に迫るこの企画。今回は神奈川県小田原市にお話を伺いました。

自然・交通利便性・歴史文化の揃う神奈川県小田原市

小田原市は神奈川県の西部に位置する人口約19万人のまちです。まちのシンボルである小田原城をはじめとする歴史文化、東京とのアクセスも良い交通の利便性、森里川海の揃った豊かな自然など多様な魅力があふれています。

市民の暮らしを支える小田原市役所では2021年度(令和3年度)に「世界が憧れるまち“小田原”」の将来像を達成するための『2030ロードマップ』を策定。その中に若手職員によるプロジェクトチームの立案した施策も盛り込むなど、若手のアイディアを積極的に取り入れたまちづくりを進めています。また、職員の心身の健康づくりや女性活躍推進などの取り組みを積極的に推進しているのも小田原市役所の特徴です。

自治体名 神奈川県小田原市
本庁舎住所 神奈川県小田原市荻窪300番地
公式ページ https://www.city.odawara.kanagawa.jp/

今回はそんな小田原市役所の若手活躍の秘訣やワークライフバランスへの取り組み、採用戦略などについて詳しくお話を聞かせていただきました。

本日お話を伺った方
小田原市役所インタビュイーのOさん

小田原市役所
職員課主事

Hさん

小田原市役所インタビュイーのOさん

小田原市役所
資産経営課主事

Oさん

小田原市役所インタビュイーのSさん

小田原市役所
保育課主事

Sさん

小田原市役所インタビュイーのIさん

小田原市役所
職員課

Iさん

市に新たなアイディアを生む、若手のプロジェクトチーム

小田原市役所インタビュイーのIさん

編集部

まずは若手活躍のテーマについて伺います。小田原市役所では若手職員のプロジェクトチームが多く発足されているとのことですが、例えばどのようなチームがあるのでしょうか。

Iさん

例えば市のリーディングプロジェクトのような位置づけの『2030ロードマップ』策定時に、庁内公募による12人の若手職員で「odawara compass」という名前のプロジェクトチームが発足されました。小田原市では脱炭素先行地域として2050年のカーボンニュートラルに向けたさまざまな取り組みを実施しており、この「odawara compass」でもそれに関連する施策を検討しました。

カーボンニュートラルに向けた市の取り組みは多岐にわたりますが、プロジェクトチームでは「職員によって実行可能なもの」かつ「有効性の高いもの」の二軸で検討を行いました。その中で生まれた施策が「職員の服装制限の緩和」と「職員間の不用品のシェアリング」、そして「勤務時間外のワーキングスペースの設置」の3つです。一つひとつの効果は大きくなくても、職員が負担なく実行できることを積み重ねていくことで脱炭素に貢献していくような取り組みとなっています。

「職員の服装制限の緩和」というアイディアなどは特に、若手職員ならではの柔軟性が活かされたものではないかと思います。従来の市役所職員の服装は、男性はスーツ、女性はブラウスなどのカッチリとしたものが当たり前とされており、クールビズの推進も期間限定にとどまっていました。しかし働きやすい環境づくりが職員のストレス緩和、ひいては公務効率につながっていくのではないかと考え、服装制限緩和のアイディアが生まれたのです。そういう新しい発想のアイディアが出ることこそが、若手職員のプロジェクトの意義なのだと考えます。

編集部

そういった若手職員のプロジェクトチームというのは、『2030ロードマップ』のような計画策定時以外にも発足されているのですか?

Iさん

はい。小田原市役所ではさまざまな課でプロジェクトチームが立ち上がっており、そこに若手職員も積極的に参加しています。

例えば最近ですと、市役所をPRする動画制作のプロジェクトチームが発足されました。複数の課から集まった20人くらいのプロジェクトチームで、自分の課に関する動画をアップしていくというものです。職員が1から企画して撮影・編集する過程を通じて動画制作のノウハウを積み上げることもできましたし、「動画」という新たな切り口での発信チャネルを開拓することもできました。

編集部

さまざまなプロジェクトチームが立ち上がって活動していることで、市役所全体にどのような効果をもたらしていると思われますか?

Iさん

プロジェクトで取り組むのは今まで市役所で前例のないことばかりなので、当然今言ったような、新たな取り組みが生まれるのは大きなメリットです。

それに加え、人材育成にもつながるのがポイントです。市役所業務は縦割りが基本ですが、こういった課を横断するプロジェクトが複数立ち上がることによって「皆で協力して進める」という機運が醸成されてきたのはとても良い効果だと思います。

またプロジェクトで新たな取り組みを進める上で、職員は自分で考えて行動し、いろいろな人を巻き込みながらチャレンジする必要があります。プロジェクトでの経験を通じてそういう主体性やチャレンジ精神を持つ若手職員が増えてきているというのは実感として感じますね。

さまざまな研修機会も若手職員の活躍を促進

編集部

プロジェクトチームに参加する以外にも、小田原市役所の若手職員の活躍を後押しする機会はあるのでしょうか。

Iさん

職員の意識改革や能力開発の一環として、小田原市役所ではさまざまな職員研修を実施しています。職場研修や階層別研修といった市役所内の研修はもちろん、派遣研修や外部機関の行う研修への参加機会が多いのも特徴です。

外部機関で行っている研修の一例としては、早稲田大学マニフェスト研究所という機関の実施する「人材マネジメント部会」や、一般社団法人プラチナ構想ネットワークという機関が実施するスクールへの参加があります。人材マネジメント部会では地域経営をリードする人材育成について、プラチナ構想スクールではプロジェクトの企画立案の方法などを学んでおり、多角的な学びの場の提供を通じて、将来的に活躍できる人材育成につなげています。

派遣研修としては、一般社団法人コード・フォー・ジャパン様や一般財団法人自治体国際化協会CLAIR(クレア)様など民間企業への職員派遣を行っています。中長期で自治体以外の職場を経験し知見や視野の広がりを得ることで、小田原市役所に戻ってきたときにその経験を活かしてさらなる活躍をしてもらえたらと思っています。

別の業種からのジョインでも安心の教育・サポート体制

小田原市役所インタビュイーのOさん・Sさん
▲民間企業から小田原市役所に入職したOさん(写真左)・Sさん(写真右)

編集部

Sさん、Oさんは民間企業から小田原市役所に入職されたとのことですが、前職とは違う小田原市役所の魅力はどういった点にあると思われますか?

Sさん

私は前職でインターネット通販の仕事をしていました。仕事自体はとても楽しくやりがいのあるものでしたが、一方で通販を利用してくださった方としか関われないことにもどかしさも感じていました。もっと多くの方に対してサービスを提供したいと考え、小田原市役所に入職しました。

現在は保育課に所属し、お子様の保護者の方や保育・子育ての支援をしている方など多くの方と接しています。さまざまな方とコミュニケーションを取りサポートできるのが仕事の楽しさ、やりがいですね。

Oさん

私は前職では金融機関の営業として働いていました。お客様との関係が親密になるにつれて金融や保険のことだけでなく私生活に関するさまざまなご相談をいただくようになるのですが、それに対してなかなかお応えすることができずにいました。せっかくならお客様に対してもっと幅広くお力になれる仕事がしたいと考え、小田原市役所に入職しました。自治体は多くの課があり、自分だけでは対応できないことでも他の課の紹介を通じてサポートできるので、そこにとても魅力を感じています。

編集部

なるほど。市民生活を広く支えることができる市役所業務にやりがいを感じられているんですね。お二方とも違う職種から転職されたと思いますが、小田原市役所での仕事に慣れる上でどのようなサポート体制がありましたか?

Sさん

信頼して仕事を任せてくださったことで、自分のペースで仕事に慣れていくことができたと感じています。その中で分からないことがあれば何でも聞ける体制があったので、とてもありがたかったですね。

Oさん

私も同様で、中途入職ということもあり先輩社員が付きっ切りで教えてくれるというよりは、仕事を任せてくれる環境がありました。自分で主体的に仕事を進めながら、分からないこと、難しいことを周りがサポートしてくれていたので、すぐに職場に慣れることができました。

Iさん

民間企業から市役所に転職することに不安を感じる方も多いかもしれませんが、実は市役所内での異動も転職に匹敵するくらい仕事内容が変わるものなんですよね。小田原市役所にはそういった仕事内容の変更をサポートするための教育体制が整ってます。別の業種からジョインする場合もしっかりと支えていける体制があるので、その点はご安心いただけるのではないでしょうか。

働き方改革をきっかけに、健康経営優良法人に4年連続認定

編集部

続いてワークライフバランスのテーマについて伺います。小田原市役所は健康経営優良法人に4年連続認定されているとのことですが、働きやすい環境づくりに取り組まれたきっかけは何なのでしょうか。

Iさん

もともとは2018年の働き方改革関連法の成立がきっかけで小田原市役所でも働き方改革を始めました。最初は職員間のコミュニケーションや組織風土の醸成といった無形の部分での取り組みがメインだったのですが、より具体的な働き方の改革に取り組むべきではないかということで「働き方ナカミ改革」に名前を変え、実務に直結するインパクトのある政策にシフトしていったという経緯があります。

健康経営に着手したのもこの働き方改革の一環です。職員自身が心身の健康を向上しながら働けるよう、ライフプランや健康に関するセミナーによる情報提供を積極的に実施しています。2021年度からは特にワークライフバランスにフォーカスした取り組みとして、女性活躍や多様な働き方の推進に注力した取り組みを進めています。

「女性活躍」にフォーカスし、多角的に働きやすい環境づくりを進める

神奈川県小田原市役所が開催する「ママジョブミーティング」
▲子ども連れで参加できる小田原市役所の「ママジョブミーティング」の様子

編集部

女性活躍や多様な働き方を推進していく上で、例えばどのような取り組みを行っていますか?

Iさん

市役所の女性活躍推進への取り組みを具体化するため、ダイバーシティ推進の専門家にアドバイザーとして入っていただきながら「女性職員の昇任希望率」「年次休暇の取得日数」「男性職員の育児参加のための休暇取得」の数値目標を設定しました。令和7年度が目標年度なのですが、既に「男性職員の育児参加のための休暇取得」の指標は達成しているため、残り2つの数値目標達成に向けた新たな施策の推進を予定しています。

また女性職員を対象とした研修を行い、意識啓発や悩みの共有を行っているのも特徴です。外部有識者を招いてダイバーシティや女性活躍に関するセミナーを実施したり、市役所の中でロールモデルになるような先輩職員からお話を聞く機会も設けたりしています。

女性活躍においては職場の理解もとても重要です。そのため役職者を対象とした研修も実施しています。女性活躍を促進していく上での誤った認識や対応への気づきを得る機会となっているようで、参加者からは「今後のコミュニケーションや業務に活かせそう」という良い意見をいただいています。

編集部

実際に小田原市役所で働く上で、働きやすさを実感するときなどはありますか?

Hさん

私自身はまだ出産・子育てといったライフイベントを経験していないのですが、同じ課にいる2人のお子様を持つ女性職員は時差出勤や時短勤務などで仕事と家庭を両立しながら働いています。そういう働き方を間近でみているので、今後自分も同じライフイベントを迎えたときに安心して働き続けることができそうだな、と感じています。

ただし本人にもっと働きやすいと感じてもらうためには、ただ制度を整えるだけでなく周りの声かけやサポートも大切だと思います。残業していたら声をかけるなど、私にもできることを協力しながら一緒に働いていけたらと思っています。

編集部

制度が整っているだけでなく、Hさんのように周囲の働きやすさに目を向けて行動を取ることができる職員の方がいるのは、働き続ける上でとても安心材料になりますね。

オンライン説明会やオープンカンパニーなど独自性ある採用活動

小田原市役所インタビュイーのOさん・Hさん・Sさん
▲採用活動を主導するHさん(写真真ん中)

編集部

採用に関しても伺います。小田原市役所は採用活動でも独自性のある取り組みを実施していらっしゃるとのことですが、具体的にどのようなことをされているのでしょうか?

Hさん

職員採用説明会として「Odawara City Recruit LIVE」という10時間連続配信のオンライン説明会を実施しました。10時間配信を打ち出したことで注目いただき、多くの方にご参加いただけるイベントとなりました。

学生の方に向けては、インターンシップに加えてオープンカンパニーやキャリア教育のイベントも実施し、小田原市役所で働く魅力や仕事内容を伝えています。実際のお仕事体験やオンライン形式での相談ができるのも特徴です。

またこういった採用に関する情報をSNSで積極的に発信しているのも小田原市役所ならではの特徴かもしれません。多くの方の目に留まりやすくなるよう、InstagramとX(旧Twitter)のアカウントでイベントの情報発信をしています。実際にSNSをきっかけにオープンカンパニーに参加してくれたという方も多く、新しい情報発信のチャンネルとして効果が出ているなと実感しています。

仕事を楽しみ、一緒に小田原市役所を盛り上げてくれる方を歓迎

神奈川県小田原市の海岸風景

編集部

最後に、小田原市役所の仕事に興味を持った読者の方に向けてメッセージをお願いします。

Iさん

一緒に小田原市役所を盛り上げてくれる方をいつでも大募集しています。先ほども言った通り、民間企業から転職される方もしっかりとサポートできる教育体制が整っています。仕事を楽しみ、働きやすい環境が小田原市役所にはあります。少しでも興味がある方はぜひ勇気を出して挑戦していただきたいと思います。

編集部

若手職員の力を活かしたプロジェクトの多い小田原市役所では、いわゆる行政の仕事のイメージの枠にとらわれない多様な活躍ができるのではないかと感じました。本日はお忙しい中、ありがとうございました!

■取材協力
小田原市役所:https://www.city.odawara.kanagawa.jp/
採用ページ:https://www.city.odawara.kanagawa.jp/about/staffin/saiyou/