注目企業の躍進の秘密や社員の働き方を探る本企画。今回は「FRECIOUS(フレシャス)」ブランドで宅配水事業を展開し、創業以来成長を続ける「富士山の銘水株式会社」を取材させていただきました。
お話の中で印象的だったのは、市場のニーズを逃さないスピード経営と、社員の声で作られていく職場環境です。女性が活躍できる環境についても伺っているので、ぜひご覧ください。
富士山の銘水株式会社とは
富士山の銘水株式会社は、2010年に設立した宅配水事業を展開する飲料メーカーです。富士山の標高1,000メートル地点にある自社工場で製品化される高品質の水と、自社開発のスタイリッシュなウォーターサーバーが高い支持を集め、創業以来、シェアを拡大しています。
さらに、2021年に市場投入した浄水サーバー事業が大ヒットし、2023年4月末時点で顧客数は50万件に到達しました。
会社名 | 富士山の銘水株式会社 |
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住所 | 山梨県富士吉田市上吉田4961番地1 |
事業内容 | ・ミネラル水の製造・販売および輸出入 ・浄水サーバーのレンタル |
設立 | 2010年11月 |
公式ページ | https://www.fuji-meisui.co.jp |
富士山の銘水株式会社の社員の男女比はほぼ1:1で、女性管理職の割合は16.7%と、全国平均の12.3%(2021年度雇用均等基本調査)を上回る実績を誇り、国が女性活躍推進企業に送る「えるぼし」2段階目の認定も受けています。
そんな富士山の銘水株式会社の成長の秘密や女性が活躍できる環境について、管理部部長の粟井太一朗様と瀬戸口美誉様にお話を伺いました。
■「えるぼし」の概要についてはこちら(厚生労働省ウェブサイト)
https://shokuba.mhlw.go.jp/published/special_02.htm
富士山のおいしい水を多くのお客様へ届けたい
▲ウォーターサーバー「FRECIOUS」はスタイリッシュなデザインも人気
編集部
まずは、富士山の銘水さんの事業内容をご説明いただけますか?
粟井さん
弊社は、ミネラルウォーターとウォーターサーバーの製造販売を行う飲料水メーカーです。富士吉田市の自然豊かなエリアに本社工場がございまして、富士山の標高1,000メートル地点で採水した水質のいいバナジウム天然水を、厳格な品質管理のもと製品化しております。
ウォーターサーバーについては、自社の開発部で企画・設計から行っています。
編集部
富士山の銘水さんのウォーターサーバー「FRECIOUS」はとてもスタイリッシュですよね。
粟井さん
お客様からは「ボトルが見えないサーバーを探していた」「インテリアにぴったり合う」といったお声をいただいております。日本の消費者のニーズにマッチしたウォーターサーバーを市場に投入できていると考えております。
編集部
消費者のニーズはどのようにキャッチしているのですか?
粟井さん
製造業のコールセンターは一般的に外注が多いかと思いますが、弊社はコールセンターを内製化しています。お客様からのお褒めの言葉もお叱りの言葉も直接、受け止めているので、経営や商品開発にすばやく反映することができるのです。タイムリーにお客様の要望を満たすことができる、そんな体制だと自負しております。
環境保全にも注力。目指すのは地域社会との「共存共栄」
▲経営理念として掲げている「社会貢献」「共存共栄」「知行合一」(会社HPより引用)
編集部
富士山の銘水さんが事業を展開するうえで大切にしていることを教えてください。
粟井さん
弊社は「富士山の最高品質の天然水を、多くのお客様にお届けしたい」という思いからスタートしました。そのミッションを達成することはもちろんですが、同時に経営理念に掲げている「社会貢献」「共存共栄」「知行合一」は事業をしていくうえで欠くことができない3要素です。
私たちの事業は、地域社会と天然資源が基盤となって成り立っています。会社として持続的に成長するためには水源と森林を守っていかなくてはいけません。事業を通じて「社会貢献」をし、お客様や取引先、地域、そして社員みんなが「共存共栄」していく、その思いを大切にしています。
編集部
地域とのつながりを大切にされているのも、経営理念に基づいてのことなんですね。
粟井さん
たとえば、山梨県は取水量に応じた森林美化を条例で義務づけているのですが、弊社ではこの条例が制定される前から、定期的に社員と地域の人々と富士山の美化活動を行っています。10年以上続く恒例行事となっていて、弊社にとって森を守ることは「当然のこと」なんです。
そのほか、地元にある陸上競技場のネーミングライツを取得するなど、地元に積極的に関わっているのは「地域社会と共にありたい」という思いがあるからなんです。
他業種とのコラボからYouTubeチャンネルまで多彩な取り組みで天然水の魅力をPR
▲YouTubeチャンネルの開設など、さまざまな取り組みを行っている(YouTubeチャンネル「みそ汁チャンネル」より)
編集部
そうした地元企業とのコラボレーションだけでなく、富士山の銘水さんはユニークな取り組みをたくさん行なっていますね。
粟井さん
昔からいろいろとやっているんですよ。たとえば、2018年には京都老舗米屋とコラボして、富士山の天然水で炊き上げた銀シャリを提供するイベントを開催しました。また、台東区蔵前のサウナで天然水を使用した水風呂で“ととのう”体験ができるイベントを行ったこともあります。
また、コーヒーメーカーと共同で開発した、天然水でドリップしたコーヒーが飲めるウォーターサーバーも好評の声をいただいています。
編集部
最近では、YouTubeチャンネルを開設されたそうですね?
粟井さん
2023年4月から、YouTubeチャンネル「みそ汁チャンネル」を開設しました。「毎日の生活でおいしい天然水をより楽しんでほしい」との思いからはじめたものです。お味噌汁のアイデアレシピから、器や調理道具の紹介まで、いろいろな情報発信をしています。
顧客数は50万件に到達!グローバル化と多角化を目指す
編集部
富士山の銘水さんは2010年の創業以来、右肩上がりで成長していらっしゃいますね。
粟井さん
おかげさまで、2021年3月期には200億円だった売上高は、2022年3月期は270億円と右肩上がりで伸びています。社員数も、2020年には300名程度だったのが、2023年4月時点では360名を超えています。
編集部
とくにここ2年ほどは、顧客数の伸びも著しいそうですね。
粟井さん
顧客数は2023年4月末時点で50万件に到達することができました。この成長を牽引したのは、2021年に市場投入した定額で使える浄水型ウォーターサーバー「every frecious」です。
こちらは天然水を使わず、水道水をサーバーに注ぐだけで、高性能フィルターによって浄化され、おいしく安全なお水を利用いただけるというものです。費用は月々のウォーターサーバーのレンタル代だけという手軽さもあってかなりの評判をいただいております。
編集部
富士山の銘水さんの勢いは、これからも止まりそうにないですね。
粟井さん
まだまだ、これで満足はしていません。創業以来行ってきた富士山のおいしい水をお届けするという事業に加え、今後は多角的かつグローバルに広げていきたいと考えています。
具体的には、ネパールを拠点にヒマラヤ山系の水を商品化する事業や小物家電の開発を見据えているところです。
躍進の理由はニーズをいち早くキャッチし開発へつなげるスピード経営
▲自社工場の徹底した品質管理のもとおいしい水が作られる
編集部
富士山の銘水さんがこれほどまでの成長を実現できた、その要因はどこにあるのでしょうか。
粟井さん
徹底した品質管理のもとに製造される水のおいしさ、高性能でデザイン性が高いウォーターサーバーなど、お客様のニーズを第一に考えたビジネスモデルがあってこそだと考えています。
たとえば、弊社の場合、水を入れる容器は使い回しをしません。使いきった容器は、小さく折りたたんでお客様自身で廃棄できるワンウェイ方式を採用しています。
お客様にしたら、空になった大きな容器を回収のタイミングまで室内に置いておかなくてもいいですし、私どもからすれば、お客様のところへ回収に行く必要がないので、物流コストが2分の1ですみます。こうした工夫を創業時からできていたのが成長の大きな要因だと考えています。
編集部
完成されたビジネスモデルがあり、そこに浄水サーバーレンタルという新事業が加わって、大きく躍進されたのですね。
粟井さん
「every frecious」の開発については、社会情勢の変化が大きく影響をしています。ちょうど2年前、自宅時間が増えて、おいしいお水を自宅で経済的な負担なく飲みたいというニーズが高まっていました。
そのニーズに応えるべく、ウォーターサーバーより安価に利用できる浄水型サーバーを開発し市場投入したところ、大ヒットにつながったのです。
編集部
開発から市場へ投入するまで早いですね。
粟井さん
弊社の経営判断はかなり早いと思います。ニーズに対応したウォーターサーバーを素早く開発することは大変ですが、それをすぐに市場に投入して受け入れられれば、成果は目に見えてわかり、社員のモチベーションも高まります。スピード経営には数字だけではない相乗効果があると考えています。
変わらないベンチャーマインドとフラットな職場環境が成長の基盤
編集部
富士山の銘水さんが創業して2023年で13年がたちました。拡大・成長していくなかで社内の雰囲気は変わりましたか?
瀬戸口さん
私は創業当初から在籍していますが、雰囲気は変わらないですね。経営的に安定して人数が増えても、ベンチャーらしさはそのままです。「みんなで会社のために頑張ろう」「会社を大きくしていこう」という考え方を、変わらず強く持ち続けていると思います。
粟井さん
他方で、拡大を続けているからといって、あくせく忙しくなった、ということもありません。そもそも弊社には営業ノルマがありません。ビジネスモデルがしっかりしているので、数字を達成するために追い込まれるということがないのです。
残業は少ないですし、有給取得率も全国平均より高いのではないでしょうか。企業は成長しても、社員が人として幸せでなければ意味はありませんからね。
編集部
社員同士のコミュニケーションはどのような感じですか?
瀬戸口さん
年齢層は幅広い会社ですが、とてもフラットです。他社さんのことはよくわかりませんが、「上司に気軽に話しかけられない」といったことはありませんし、なんでも相談しやすい環境だと思います。むしろ新しい人、若い人の意見は尊重されますね。
粟井さん
弊社は社長以外、みんな「さん」づけで呼び合っているんですよ。取締役に対しても「○○さん」で、役職をつけて呼ぶことはありません。私も「粟井部長」なんてかしこまって呼ばれたら、むしろ戸惑ってしまいます(笑)。
女性管理職の割合16%超。“先輩お母さん”の存在が両立を後押し
編集部
富士山の銘水さんは、国から女性活躍推進企業に与えられる「えるぼし」2段階目の認定を受けていますね。また、女性活躍推進に取り組む企業に与えられる山梨県の独自制度「えるみん」にも認定されています。
瀬戸口さん
弊社の従業員の女性比率は50.6%で、社員の半分は女性です。管理職における女性の割合も16.7%になります。営業やマーケティング、カスタマーサポートやコールセンターや製造オペレーターなど、部門や部署を問わず女性が活躍しています。
編集部
やはり、女性が働きやすい制度が充実しているのでしょうか。
瀬戸口さん
産休・育休は制度としてもちろんありますし、就学未満児がいる社員には育児支援手当の支給もあります。
制度や仕組みもありますが、それ以上に、社員一人ひとりの状況や状態に合わせて柔軟に対応する会社のスタンスと、相手の立場を理解して協力を惜しまない周囲の環境が女性の働きやすさにつながっていると感じます。
編集部
具体的にはどのような点でしょうか?
瀬戸口さん
たとえば、マーケティング事業部の女性は出産予定日の1か月半前から産休に入り、復帰した現在は、保育園に通う子どものお迎えがあるため時短勤務をしています。退勤後に対応しなくてはならない業務が発生したらメンバーが引き継ぎますし、子どもが熱を出したといったときも、誰かが当然のようにサポートに入ります。
それはルールや制度で決めたものではありません。私自身、産休育休を2回取得していますし、他にも50代・60代のベテランの先輩お母さんがたくさんいます。みんな、子どもを産んで育てる大変さを知っているから、「うちもそうだった!」「大丈夫!」という言葉が自然と出てくるのです。
編集部
仕事と育児を両立できる制度も環境も両方、整っているのですね。
瀬戸口さん
そうした雰囲気ですから、弊社では育休が終わったら復帰するのが当たり前です。復職率は100%で、私より下の世代の女性社員も「妊娠したら仕事をやめなきゃいけない」なんて考えている人はいないと思います。
求めるのは「知識を知恵に変換してすぐに行動できる人」
編集部
富士山の銘水さんの求める人材像を伺いたいのですが、必要な経験などはありますか?
粟井さん
経験はまったく問いません。前向きに新しいことにチャレンジしてほしいので、前職の経験に縛られてしまう人のほうが、むしろ大変かもしれません。「とにかく、お金をたくさん稼ぎたい!」という人も大歓迎です。
瀬戸口さん
弊社はまだまだ発展途上の会社です。働き方や各種制度も、社員の声を受けとめながら進化させていくものだと考えています。
そのため、「条件が整ったいい会社で働きたい」と考えている人より、「自分でいい会社をつくりたい」と考える方のほうがマッチするように思います。大切なのは、やる気と素直さだと思います。
編集部
社員が積極的に意見を出し、会社も働き方も変えていけるのですね。
粟井さん
先ほど、私どもの経営理念である「社会貢献」「共存共栄」「知行合一」のお話をさせていただきましたが、求める人材も「知行合一」が実践できる方です。
知行合一は中国の古い言葉で、知識と行動は表裏一体といった意味で用いられますが、弊社では「知識を知恵に転換して、すぐに行動する」ととらえています。
「知行合一」は簡単なことではありませんし、弊社の社員全員が実践できているとは言い難いのですが、経営理念に共感し、知識を知恵に変えて、「会社のため・社会のため・地域のため」に行動ができる方と一緒に働きたいですね。
編集部
富士山の銘水さんは、事業規模だけでなく、組織のあり方としても絶えず成長を続けてきたのだと感じました。本日はありがとうございました。
■取材協力
富士山の銘水株式会社:https://www.fuji-meisui.co.jp
採用ページ:https://fuji-meisui.recruitment-info.jp/recruit/