AIと数学で社会に貢献する。Arithmer株式会社のアカデミックなカルチャーとは

企業の成長理由を、SDGsをキーワードに探るこの企画。今回は「数学で社会課題を解決する。」をミッションに掲げ、最先端のAIエンジンを駆使したソリューション開発を展開する、Arithmer(アリスマー)株式会社を取材しました。

高精度なAI技術で社会課題を解決するArithmer株式会社

Arithmer株式会社は、東京大学で客員教授も務める大田佳宏さんが代表取締役社長兼CEOを務める、AI技術を利用したソリューションシステム開発を手がける企業です。

画像認識や自然言語処理、ビッグデータ解析などを企業向けに提供する他、 活字と手書き、定型と非定型の紙文書や画像文書を高精度にテキスト化するサービス、事故画像の自動解析、チャットボット、自動採寸など、顧客企業に合わせたサービスを展開しています。

会社名 Arithmer株式会社
住所 東京都文京区本郷1丁目24番1号 ONEST本郷スクエア3階 
事業内容 高度数学を応用したAIソリューションサービスの研究・開発
設立 2016年9月1日
公式ページ https://www.arithmer.co.jp/

「数学で社会課題を解決する会社」を掲げるArithmer株式会社は、社会実装されていない最先端の高度数学を活用したイノベーションの実現に向け、独自のアルゴリズムを用いてさまざまな事例に対応しています。

近年では画像検査のAIを活用した風力発電の機器異常の予兆検知や、浸水予測などに使える流体予測AI、工場火災などの事前検知に用いる予兆保全AIなど、SDGsに関連するソリューションに注力し、高い評価を得ています。

そこで今回は、東京大学大学院数理科学研究科初の起業家である大田佳宏さんに、高度数学がもたらす可能性や事業内容、活躍するエンジニアの特徴などについてお話を伺いました。

本日お話を伺った方
Arithmer株式会社代表取締役社長兼CEO大田佳宏さん

Arithmer株式会社
代表取締役社長兼CEO

大田 佳宏さん

AIを活用した委託事業と独自のソリューションで上場を目指すArithmer

議論するArithmer株式会社の社員の様子

編集部

数学のコア要素技術をベースに、AIで企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)におけるソリューション事業を展開されているArithmerさんですが、2016年の設立から現在に至るまで、どのような方針で事業を展開されているのでしょう。

大田さん

業績が黒字になったことを機に、上場の準備を進めている当社は現在、社員数60名の組織となっています。コロナ禍以前は100名ほどの社員を抱えていたのですが、黒字を出していないとなかなか上場できないというIPO市場の変化に合わせて利益重視に舵を切り、新規採用を一度見合わせたことが社員数減少の理由です。

2023年に黒字化に転じたことを機に、一気に業績を伸ばしていこうと社員一丸となって取り組んでいます。

編集部

黒字化に転じた要因をどのように分析されますか?

大田さん

まず、大手企業様に株主になっていただいたことが要因の1つとして挙げられます。設立から7年目を迎える当社はAIの委託開発事業からはじまり、数千万円規模のものを納めてきました。しかし、委託開発は利益率が低く、案件数も少ないことから、セミカスタマイズができるBtoB向けのAIソリューションのラインナップを10個ほどリリースしました。

大手企業様をターゲットとしたこれらの事業を2023年度から拡販し、売り上げにつながったことが黒字化を実現した最も大きな要因です。

AIソリューションでクリーンエネルギーと気候変動への対策に貢献

編集部

BtoB向けのAIソリューションのうち、代表的なものをご紹介いただけますでしょうか。

大田さん

SDGsの観点からも注目されている風力発電に関連した「風力AI」というソリューションを展開しています。クリーンエネルギーの中でも指数関数的に風車の設置台数が増えている風力発電ですが、一方で、風車の故障におけるダウンタイムの発生や、故障・事故による社会的影響、メンテナンス人材の不足など、対処すべき課題が多いことが実情としてあります。

もちろん、点検は常に行われていますが、故障が発生してから人が駆けつけるようでは対応が遅く、オイル漏れによる発火が起きると甚大な被害と損害を及ぼすリスクがあります。

当社の「風力AI」は、風力発電のナセル内部にカメラを設置し、常時、画像データを取得、故障に至る前の予兆を発見することができます。風力AIは大手風力会社様のコンペティションで1位を獲得したことを機に、導入実績が増えています。

SDGs目標13「気候変動に具体的な対策を」を実現した「浸水AI」

編集部

風力AIの他、環境に関連した事業はありますか?導入実績とともにご紹介いただければ幸いです。

大田さん

SDGsの13番目の目標である“気候変動に具体的な対策を”に関連した「浸水AI」という開発事業があります。

気候変動により、日本でも近年、ゲリラ豪雨など予想以上の降雨により、河川の氾濫による被害が多くなっています。被災した家屋に保険金を支払う場合、保険会社の検定者が一軒一軒回って浸水状況を確認してから支払業務を行うため、保険金の支払いまでに時間がかかっていました。

そこで当社は大手損害保険会社様と共同で、特許取得済みの浸水シミュレーションモデルを活用した「浸水AI」を開発しました。これにより、高精度で浸水被害の算出が可能となり、広大なエリアを数時間かつ、数センチ単位で計測できるようになりました。「浸水AI」を用いたことにより、保険金の支払いが迅速に行えるようになったと評価いただいております。

編集部

Arithmerさんの技術は、地球が抱えるさまざまな環境問題の解決にも役立てられているのですね。

AI×ロボット技術で医療と創薬を変えるプロジェクトに着手

編集部

Arithmerさんでは今後、どのような事業を展開される方針なのでしょう。

大田さん

エネルギーや気候変動の他、さまざま事業に取り組んでいる当社は、健康・医療をAIで考えていく事業を進めています。現在、さまざまな研究機関や医療機関と共に、新薬や新しい治療法の確立を目指しています。

編集部

医療分野に置いて、ArithmerさんのAIエンジンはどのように活用されるのでしょうか。

大田さん

例えば、細胞の生成具合を画像解析で見ながら、その動きをAIとロボットを使ってきれいに攪拌できるよう整理をすることができます。このように、AIで医療と創薬(※)を変えることを目的としたプロジェクトもあります。
(※)創薬:新しい医薬品を作り出す過程

数学を応用した高度AIシステムで社会課題の解決に貢献

編集部

東京大学大学院数理科学研究科の客員教授でもある大田さんにお聞きします。Arithmerさんが掲げている“数学で社会課題を解決する”というミッションにある“数学”とは、何を指すのでしょうか。

大田さん

急速に広がりを見せているAIの活用ですが、AIのプログラムを書く時のアルゴリズムは数学的な概念に基礎を置いています。

一般のライブラリに使う場合はそれほど気にする必要はありませんが、われわれが独自にプログラムを書くときは、数式や方程式など数理モデルを作ってからアルゴリズムにしてプログラムを書くため、数学が基盤になります。そのため、出口はAIですが、人材においては数学の能力が非常に高い社員が集まっています。

編集部

数学のコア要素技術は、AIに欠かせない技術であることがわかりました。

博士号を持ったエンジニアが99.5%以上の高い精度を実現

Arithmer株式会社のミーティング風景

編集部

風力AIをはじめ、製造AI、建設AI、物流AI、リテールAI、バイオAIなど、さまざまな最先端のAIエンジンを駆使したソリューションを開発しているArithmerさんですが、開発に携わるエンジニアはどのようなスキルを持っている方が多いのでしょうか。

大田さん

当社では、自分でプログラミングができるスキルを持ったエンジニアを採用しています。研究開発本部には博士号を持ったエンジニアが10数名在籍し、自分でアルゴリズムを考え、独自のプログラムを書き、スクラッチからコーディングまでを担っています。

当社の開発の多くは、BtoC向けのハブのライブラリやオープンAIを組み合わせたものが多いのですが、BtoBのAI市場になると既存のライブラリを組み合わせただけでは80%強ほどの精度しか出すことができず、その数値ではBtoBとして提供することはできません。

編集部

なるほど。数理モデルを基盤としたプログラムが、精度の高さにつながっているのですね?

大田さん

おっしゃる通りです。既存のエンジンとは異なり、新たなアルゴリズムや正式モデルを使うことで、精度は大きく変わります。例えば風力なら、風力に特化した形でプログラムを書くことで、高い精度を実現することができます。

そこで当社では、BtoBのAI市場が求める99.5%以上の精度を出すため、高いスキルを持ったエンジニアを採用しています。これは当社の強みであり、独自性でもあります。

特許取得、論文発表を推奨するArithmerのアカデミックなカルチャー

Arithmer株式会社のオフィス内観

編集部

博士号を持ったエンジニアなど、高いスキルを持ったメンバーがジョインしているArithmerさんには、どのような社風が根付いているのでしょう。

大田さん

AIの論文の執筆や学会発表、特許取得など特許を奨励している当社は、それにより、自分のスキルを上げながら世界提携するAIのソリューションを提供するといった、アカデミックな文化が根付いています。

ディスカッションをしながらアイデアを出し合い、プログラムを書いたり、AIの論文を一緒に読み解いたりする他、エンジニアが中心となってさまざまな勉強会を行うことで自主的な学びと知識の共有をしています。これらはわれわれの大切なカルチャーとなっています。

編集部

社員が一緒に読み解くAIの論文とは、具体的にどのような内容になるのでしょうか。

大田さん

マシンラーニング、ディープラーニングの学習や生成AIなどがあります。また、もっと基礎的なシミュレーションの数理モデルやビッグデータ解析の論文などもあります。

論文を読む理由は、高い精度を出すためには最先端の理論を応用し、プログラミングをする必要があるからです。当社では最先端の論文レベルを超えるプログラムを作ることを目指しています。

数学×AIで社会課題の解決に尽力できることがやりがい

Arithmer株式会社の社員によるミーティング風景
▲高度数学でさまざまな社会課題の解決に貢献するArithmerの社員は、高いスキルを持って日々、新たなAIエンジンの創出に尽力している

編集部

Arithmerさんの社員さんは、どのようなことにやりがいを感じていると思われますか?

大田さん

エネルギーや災害など、生活に関わることに自分の技術が役立てられることにやりがいを感じる社員が多いように思われます。

非常に難しい分野の数学は、やりがいはあるものの、なかなか日常生活に結びついたイメージができない学問です。その数学を基礎としたAIで、エネルギー関係や災害対策に貢献できるのが、当社の魅力でもあると感じます。

また、採用時の面接においても、自分の技術が社会に役立っていることを認識できることにやりがいを感じたという声が多く寄せられます。

編集部

Arithmerさんにジョインするエンジニアは、どのようなことに成長や充実感を感じていると思われますか?

大田さん

最先端の技術で開発に挑む当社のエンジニアは、自分の能力を高めることはもちろん、常に周りの社員とコミュニケーションを図りながら日々の業務に向き合っています。

博士号を持ったエンジニアをはじめ、レベルの高い仲間と共に、自分の能力を向上できることも、やりがいや充実感につながっていると思われます。

編集部

学んできた数学が学問だけではなく、さまざまな社会課題の解決に役立てられることは、モチベーションにもつながると感じました。

社会課題の解決に充実感を得られる方を歓迎

Arithmer株式会社代表取締役社長兼CEO大田佳宏さん

編集部

数学という学問を追求すると同時に、自然環境など社会課題にも貢献できるArithmerさんの事業に興味を持った読者は多いと思われます。非常に高い専門性が求められる御社の事業ですが、フィットする人材とはどのような方なのでしょう。採用におけるメッセージとしてお聞かせください。

大田さん

社会課題解決に貢献するスキルを持ったエンジニアに加え、既存のソリューションをさまざまな企業様にしっかり納めていく、営業的な職種の採用も強化していきたいと考えております。

営業職と聞くと、数字に弱いことを理由に敬遠する方もいますが、実はそこはあまり問題ではなく、当社としてはエンジニアとコミュニケーションを取り、お客様の課題をしっかりヒアリングしてつなげていけることを重視しています。

お客様が抱えている課題に対し、われわれのどのAIが適用するかをしっかり消化していくので、当社の営業職はコンサルティング的な能力も求められます。能力を発揮した結果、社会課題を解決し、充実感を得られるマインドを持った方を歓迎します。

編集部

エンジニアの募集も引き続き行われるとのことですが、こちらについてもメッセージをお願いします。

大田さん

さまざまな分野で広がりを見せているAIですが、既存のAIを使うだけではなく、自ら新しいAIを作るエンジニアは今後、どんどん必要になると思われます。ぜひ、そのような高い志を持った方にジョインいただけたら幸いです。

編集部

今回の取材を通し、Arithmerさんが数学とAIでさまざまな社会課題の解決に尽力する、チャレンジスピリットにあふれた企業であることがわかりました。また、高いスキルを持った御社の社員と共に働くことは、自己成長にもつながると感じます。

本日はありがとうございました。

■取材協力
Arithmer株式会社:https://www.arithmer.co.jp/
採用ページ:https://www.arithmer.co.jp/recruit-top