人事採用のプロが解説:実は知らないテレワークのデメリットから考える転職

人事採用のプロが解説:実は知らないテレワークのデメリットから考える転職

2020年代に入り、時代の大幅な変化にあわせて一気に採用する企業が増えた印象がある「テレワーク・リモートワーク」。

これから転職活動をしていく人にとっては、テレワークを前提とした転職となる人も多いはず。在宅で仕事をする楽さにスポットが当たりがちですが、一方でデメリットも多くあります。

本記事では、人事・採用のプロとして多くの著書をもつ曽和利光さんに、テレワーク時代の働き方において、知っておくべきデメリットにスポットを当てて話を伺いました。

お話ししてくれた専門家

株式会社 人材研究所

代表取締役社長 曽和 利光さん

リクルート、オープンハウス、ライフネット生命保険など、多種多様な業界で人事を担当。そのなかで培った経験と知識に、心理学を融合させた独特の手法が特徴とされており、多くの企業の人事部に採用関連のコンサルティングを実施している。累計2万人超の就職希望者の面接をおこなった「人事のプロ」。

テレワーク普及率は伸びている

前提条件として日本でのテレワークの実施状況について知っておきましょう。

以下のデータは総務省発表の、令和3年度に東京商工リサーチが企業を対象に実施したテレワーク実施状況の調査結果です。

総務省より、東京商工リサーチが行なったテレワークの実施状況引用:総務省テレワークの実施状況

2020年4月〜5月に大きく伸び、その後低下しているものの、全体としては2020年3月と2021年3月を比較して、20%ほど割合が伸びています。

では、今後もテレワークの実施は伸び続けていくのでしょうか?

人事採用のプロ目線でもテレワークは定着&普及

編集部

時代の要請もあり、2020年春頃からテレワークの普及が大きく進みましたが、当時はある意味「しかたなく」で始めた企業も多かったように思います。そんな中で、今後もテレワークは普及し、定着していくのか、どのように見ているでしょうか。

曽和さん

まず、採用・人事の目線から見ると、テレワークは定着しこれからも普及していくと思います。

これはどちらかというと、企業側の判断というより、労働者側がテレワークを希望している影響が大きいと考えられ、採用市場ではテレワークを導入していることがプラス要素になってきている状況です。

また、「少子化を背景とした人手不足」もテレワークを加速させる要因と考えています。労働人口が減っている現状で、「地方への移住後、出勤を減らして自由な働き方をしたい」など、働き手の希望を無視するわけにはいきません。

ただ、事業運営や現場の観点からいうとちょっと難しいところもあるんですよね。直接顔を合わせないスタイルのまま、企業やチームとしての創造力をどうやって保っていくかというのは、なかなか解決できない課題です。

テレワークにメリットを感じているから導入するというよりは、「やらざるを得ないからテレワークを導入する」というのが、多くの企業にとっての本音ではないでしょうか。

テレワーク時代でも採用基準は大きく変わらない

テレワーク時代の採用基準について語る曽和さん

編集部

となると、今後はテレワーク前提で転職活動をする人も増えると思いますが、採用の基準や、企業側が求職者を見る目線に変化はあったのでしょうか?

曽和さん

そもそも会社組織は、「リモートで働く耐性がある・ない」にかかわらず、うまく回っていくように作るのが基本です。

仮に「リモートの環境に向いている人だけ採用したい」と決めてしまうと、今までの基準に加えて条件が増えるわけなので、ターゲットが狭まってしまうんですね。現在の採用市場では対象を狭めている場合ではないので、採用基準は変えずサポート体制を整える企業が多いですね。

ただ、採用する人材のタイプを考えた場合、やはり多少の影響はあると思います。言語化能力や自立性がある人、リモートの環境でもメンタル面で問題のない人は、もちろんプラスの評価をされるでしょう。

ただ、日本人はそうした資質を持った人は多くありません。というのも、日本語は他の言語と比べると「非言語コミュニケーション」の役割が多く、あいまいな言語なんです。だから、もともと日本人は自分の考えを言語化する能力よりも、他人の言葉を察する能力の方が高いんですよね。

さらに、日本の雇用は「メンバーシップ型」といって、チームで一丸となって結果を出していく傾向があるので、相互依存性も高いわけです。だから、自立して仕事ができる人材も決して多くはありません。

結果としてなにが起きるかというと、先ほどお伝えした能力を兼ね備えた「テレワーク時代に求められる人材」は非常に貴重なので、採用市場では取り合いになるんです。採用基準をテレワーク仕様に変えたとしても、人材に限りはあるので、結局は誰も採用できなくなってしまう。

それなら、基準は大きく変えずに採用し、テレワーク環境にあわせたサポートをして育てていくという流れになっているかと思います。

テレワークのデメリットから考える、向き・不向き

テレワークにもデメリットは多い、と語る曽和さん

編集部

働き手の視点からは、場所に制限されないテレワークはメリットだらけのような気がしますが、実際デメリットや問題も多くあるものでしょうか?

曽和さん

そうですね、テレワークのデメリットは多く存在しています。わかりやすい例で言うと「さみしい」とかですね。

編集部

へ〜、そう感じる人もいるんですね?寂しさのデメリットは考えたことがなかったです。

曽和さん

冗談のように聞こえるんですが、本当です(笑)

テレワークだと、基本的にはずっと家にこもっているわけです。業種や職種によってはオンラインミーティングを頻繁におこなう人もいるかと思いますが、ずっとパソコンに向かってコツコツ作業をするような仕事だと、自分が機械のような感覚になってしまう人もいると思います。

他にも、真面目に根を詰めて仕事を進めた結果、気分転換がうまくできなかったり、仕事と私生活のオン・オフがはっきりしないため、ダラダラと働いて労働時間が増えてしまったり、デメリットは意外と多くあります。

編集部

つまり、テレワークも人によって「合う・合わない」があるということですね?

曽和さん

そのとおりです。いくつかパターンがあると思いますが、「性格的に1人でもさみしくない人」や「自立性があり単独で仕事ができる人」はテレワークに向いていると思います。そうではない人は、従来どおりオフィスで仲間と対面して仕事をしていくほうが働きやすいわけです。

人だけでなく、仕事内容にもテレワークの向き不向きがある

曽和さん

また、そのとき取り組んでいる仕事の内容によっても、テレワークが合うか合わないかは変わってきますね。重要となるのは仕事の「相互依存性」の程度です。つまり、切り離されて自己完結している仕事なのか、他人とやり取りをしながら進めていく仕事なのか。その違いによって、テレワークでの働きやすさはまったく異なります。

自己完結する仕事内容であれば、そもそもオフィスにいたとしてもずっと1人で仕事をしているわけです。それなら、作業するのが家であっても構わない。

ところが、作業が進むたびに他人にチェックしてもらうような仕事の場合、テレワークだとレスポンスが遅い場合にそこで仕事がストップしてしまうわけです。みんなオフィスにいれば、担当者の席に行って聞けばすぐに進められるんですけどね。

あとは、創造的な仕事のなかにも、テレワークが合わない状況があると思います。複数人でゼロベースからワイワイガヤガヤ言いながら「どっちに進んでいこう」「ここをどうしようか」と決めていくような作業は、実際に顔を合わせないとやりづらい面がありますから。

そこはやはり、オンラインではなくホワイトボードを前にしてみんなで自由に発言するほうがやりやすかったりしますよね。もちろん、企業文化や仕事の内容によって異なるとは思うのですが。

編集部

なるほど。個人の性格だけでなく仕事の内容にもテレワークとの相性があるんですね。

テレワークに向いている人、向いていない人とは

”目で見て学ぶ”ができないことは教育面でもデメリット

曽和さん

また、テレワークのデメリットはナレッジマネジメントの観点でも課題があります。

人間は自分が持っている知識を、すべて意識して言葉にできているわけではありません。ある人が持っている固有のスキルを他人に伝えなければいけない場合も、言葉だけでは説明できないケースがあります。

ではどうするかというと、実際に一緒に仕事をして、そのようすを観察することで、いわば「盗んで学ぶ」ことが多いんです。テレワークだとその工程が難しいので、言語化していない知識の共有ができなくなるわけです。

これまでは、同じ場所にいて行動をともにしているからこそ学ぶことも多く、そこからさらに新しいものが生まれていくというメカニズムがあったと思いますが、テレワーク中心だとそれも少なくなっていくのではないかと思います。

同僚の仕事を見て学ぶ「行動観察」がなくなると、言語だけで情報を伝える世界になります。すると、言語化能力が低い人たちもテレワークには向いていないということになりますね。
※上記についてさらに詳しく理解したい方は、野中郁次郎先生が提唱するSECI(セキ)モデルについて、調べてみてください。

編集部

となると、マニュアルや知識のドキュメント化ができていない企業だと、個々のスキル差はどんどん開いていってしまう可能性もありますね。

テレワークでも働きやすい企業の見極めは新しく導入した仕組みにあり

テレワーク時代の転職について語る曽和さん

編集部

ここまでお話を伺って、テレワークにもいろいろな課題があることがわかりました。となると、「テレワークでも働きやすい企業」と「テレワークに問題を抱えて働きづらい企業」が分かれていくのではないかと思います。その中で、テレワークでも働きやすい企業に転職したいと思った時、どのように見極めていくべきでしょうか?

曽和さん

ポイントとしては、「テレワークに特化した環境ができているか」どうかを見るべきでしょう。

要は、対面からリモートに変化したことで消えてしまったものに対して、代替物を用意できているかどうかです。

例えば、パルスサーベイの導入

曽和さん

テレワークで消えてしまったことでわかりやすいのは、相手の顔色などを見て、「体調大丈夫か?」と言った声かけです。

この代替として代表的なものが「パルスサーベイ」です。これは、週1回〜月1回など定期的に定形の質問を実施する意識調査です。「いまの仕事にやりがいを持てていますか」「現在の環境で成長を感じていますか」「体調は良好ですか」というようなシンプルな質問で、社員の状況をモニタリングするわけです。

このシステムが効果的かどうかは、企業が結果をもとに改善につなげられるかで変わってきますが、少なくとも対面コミュニケーションの代替物を用意しているとはいえるわけですね。

編集部

なるほど。特に新人の頃は声をかけてもらうことで安心したり、「実は…」と話ができることもありますね。やはりコミュニケーションの面が多そうですね。

例えば、パーソナリティテストで性格の共有

曽和さん

そうですね。ほかにテレワーク環境で変わった点としては、メンバー同士の相互理解が進まないことが挙げられます。対面であれば、ふとしたときに雑談をしたり、ときには一緒に食事に行ったりして、お互いの性格などが自然にわかってくるんですよね。

「どんな性格の人が何を言ってるのか」を把握することで、より正確に情報の解釈ができるため、チームメンバーでの相互理解が重要です。コミュニケーションがスムーズになることで、単なる仕事の情報のやり取りでも、その質が変わってくるわけです。

これの代替として、テレワークだと多くの場合はコミュニケーションが不足するので、例えばMBTI診断など、相手の性格がわかるパーソナリティテストを取り入れ共有し、お互いの性格を共通認識として持つような対策が考えられます。

編集部

なるほど。実は私たち編集部でもストレングスファインダーという特性がわかる診断をやり、互いの資質を知るワークショップを行い、コミュニケーションが取りやすくなったのを体験しています。

教育体系をどう整えたかも知るべきポイント

曽和さん

さらに付け加えると、人事や社員教育の面でもテレワークに対応しているかどうかを見ると良いでしょう。

たとえばマネジメントする立場である管理職の人たちは、言語化する能力が低かったとしても、対面であれば「背中を見せる」というかたちで教えることができていました。しかし、リモートだとそういったやり方は通用しません。ではどうするかというと、管理職の人がコーチングをするときに、会社全体で彼らが持っているものを言語化するサポートをやっていかなければならないわけです。

そのためには、会社の育成体系を整える必要がありますね。メンバーにどのような能力を求めて、何を教えていくかをきちんと可視化することです。

育成の内容をあいまいにするのではなく、チェックシートを設けるなどして、はっきりとした育成体系に基づいて言語化、形式知化していくこと。また、文章や図表などでわかるかたちにしていくことも、リモートの環境で社員に力を発揮させるためには大切な作業となります。

上記のような制度やツールの整備状況を確認すると、テレワークがうまくいっている企業かどうかを判断できるのではないかと思います。

テレワークがうまく機能している企業とは

面接ではこう質問してみよう

編集部

そのような仕組みを取り入れているかどうかを面接などで聞き出すには、どのように質問すればよいでしょうか?

曽和さん

その会社が新しく導入したことについて聞くといいと思います。「御社はテレワークを推進されていると思うのですが、それにともなって導入した新しいサービスやツールはあるでしょうか?」といった感じです。

単に「オンライン会議システムを取り入れている」といっても、近年はいろいろなサービスや機能がありますよね。たとえばバーチャルオフィスになっていて近くにいる人の声が聞こえてくるような機能があったとしたら、それは企業が意図的に導入したはずなので、質問にも具体的に答えてもらえるはずです。

そういった新しいサービス・ツールを導入しなくてもテレワークがうまくいっている企業もありますが、それは所属しているメンバーがプロで、自立している人ばかりそろっているというケースです。ある程度放置してもきちんと仕事が回るような会社だと、そもそも代替物を入れる必要がなかったのかもしれません。

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テレワーク時代の転職ポイントまとめ

テレワーク時代の転職ポイントまとめ

曽和さんにテレワーク時代の転職に関して、デメリット目線から注意点を教えていただきました。まとめると、以下の4つが理解すべきポイントです。

  1. テレワークが採用によってプラスに動いていることから、テレワークを辞める選択ができる企業は少ない。よって、テレワークは定着し、拡大していく!
  2. テレワークが主流になったとしても、テレワーク適性が高い人材を探してもなかなか見つからないのが現状。よって、採用基準が変わるわけではなく、企業側がテレワークに合う制度を整えることが重要!
  3. テレワークはメリットばかりではなく、実はデメリットも多数…。そうしたデメリットを解消するため、対面ではできていた事の代替となる仕組みを導入していくことが企業側の課題であり、求職者も知るべき点!
  4. 転職においては、希望する企業がテレワークによって新しく導入したツールを聞き、対面で失われた代替物を導入しているか確認してみよう!

テレワークを希望する・しない、どちらだとしても、自分に合った企業を探す場合、企業の内情をよく把握している転職エージェントに相談すると良いでしょう。