プロが教えるキャリアチェンジの方法|未経験からチャレンジしたい人は必読

憧れの職種や業界へキャリアチェンジをしたい」と未経験での転職を目指す人も多いのではないでしょうか。

とはいえ、経験職種での転職より、未経験での転職の方が難しく簡単にはいかないのも事実です。

本記事では、人事・採用のプロである曽和さんに、未経験やキャリアチェンジ転職で意識すべきことを教えていただきました。

お話ししてくれた専門家

株式会社 人材研究所

代表取締役社長 曽和 利光さん

リクルート、オープンハウス、ライフネット生命保険など、多種多様な業界で人事を担当。そのなかで培った経験と知識に、心理学を融合させた独特の手法が特徴とされており、多くの企業の人事部に採用関連のコンサルティングを実施している。累計2万人超の就職希望者の面接をおこなった「人事のプロ」。

キャリアチェンジの2つの方法

編集者

今回はキャリアチェンジをテーマにお話をお伺いできればと思います。なりたい職種や行きたい業界があったとき、「未経験での転職は不利なのではないか?」と不安になっている方が多いのではないかと考えています。

そこで、キャリアチェンジを考えたときに、どのような戦略で転職活動に臨むべきか教えてください。

曽和さん

ポイントは2つあると思っています。

1つは軸足を決めてピボットで考える。これは20代後半などある程度、実務経験を積んだ人に向いている考え方です。

もう1つはポテンシャル採用。こちらは第二新卒など実務経験が浅い人に向いている考え方です。

ほとんどの人が前者に当てはまると思いますので、こちらから先に解説しますね。

キャリアチェンジの考え方

実務経験のある人はピボット型でキャリアチェンジ

曽和さん

ピボット」というのは、例えば右足を軸足にして動かさず、左足だけ動かすような形で、今までの経験が多少なりとも活かせる会社を探していくという意味です。

では、軸足とは何かというと、これはいろいろあると思っていまして、”ゼクシィ”という結婚情報誌を例にしましょう。この結婚情報誌で営業をやってた人がキャリアチェンジをしたいと考え、軸足を決めた場合、”F1層(20~34歳の女性がターゲット)のマーケットで営業をしてきた経験”が軸になると思います。

その場合、ターゲットがF1層のビジネスであり、かつ今までの経験を活かした上で、別の職種にチャレンジできるならば、面接なんかでも話せることは増えますよね。

このように、全くゼロからの異業種転職・異職種転職と考えるとのではなく、今の仕事によって得られているノウハウや知識・経験を細かく整理する中で、次に目指したい所との共通点を探して行き、そこを軸として色々やってみるのが「ピボット」での転職活動だと思っています。

編集者

なるほど、概要は理解できました。具体的には今の仕事の整理から始めるということですか?

曽和さん

そうですね。まずやるべきことは、何について詳しいのか・どんなスキルと経験があるのか、を棚卸していくことです。

これはできるだけ細かく考える方が、領域は広がって行きます。ゼクシィの例でもっと具体化すると、”結婚”と”情報誌の営業”を軸にしてしまうと、この2つの中で動かせるところは限られてくるので、異業種・異色種で転職できる可能性が減るわけです。だからもう少し細かく、「ターゲットがF1層のビジネス」のような切り口を持つと、資生堂でマーケティングをやることだってありえるかもしれないですよね。

実は、異業種異職種転職というのは、人事や採用の観点からするとあまり優先的に取りたいところはないんです。

ほとんどの会社は基本的に経験者採用、特に中途採用だと経験を買うようなところがあり、わざわざ未経験者を採用する場合、何らかのプラスアルファや売りみたいなものに惹かれて採用を決めていく形になると思います。

それを考えると、採用側が「なんでゼクシィの営業なのにうちに来たの?」と感じたとき、

いや実はゼクシィの営業の仕事というのは、F1層のニーズをかなり調べた上で、情報提供をしているので、すごく詳しいんです。御社のターゲット層と同じなので、そのような知識を活かせると考えています。

と伝えることができれば、「だったら未経験でも活躍できるポジションがあるかもな」という感じになると思うんですね
20代後半からの異業種への転職について

実務経験が少ない人はポテンシャル型でキャリアチェンジ

二つ目はポテンシャル採用ですね。これは第2新卒向きの考え方ではありますが、20代の転職だとスペシャリスト採用よりもポテンシャル採用も多くて、例えばその世代が欠けているから少し採っておこうかというような中途採用も全然あり得るわけですね。

そうした場合、「異業種異職種・未経験者歓迎」という採用になり、新卒のようなポテンシャル採用をやっていくことになります。この場合は、先ほど言った今までやってきた仕事のコアすら捨てて、自分が元々持っている強み弱みで勝負していく世界になっていくと思います。

ただ、ベーシックスキルの中でも、学習能力がどのぐらいあるのかは気になるところだと思うんですね。人間というのは年を取れば取るほど新しいものを学習していくことが苦手になって行きますから。

例えば、過去に勉強してきたことや学んできたことをアンラーニングしなきゃいけないところが新卒と違うところだったりします。アンラーニングっていうのは、今まで持っているスキルや知識ではなく、新しい知識やスキルを学んでいくことです。

過去の前職で学んだことを横に置いて、「うちの文化だったり必要なもの・能力に対して一生懸命適応してくれますか?」という質問がまず最初に出てくると思います。

つまり、アンラーニングを含めた学習能力みたいなものを、ベーシックスキルの中ではとても気にされることが多いと思います。
20代前半の転職はポテンシャル採用の考え方で戦力を立てる

キャリアチェンジ転職ではエージェントや知人に紹介してもらおう

編集者

「自分で勉強はしてみたけど転職となると本当にいけるのかな」とか「やっぱり厳しいんじゃないかな」ということを考える方は多いと思います。

どういう順序で未経験の転職を実現させていくべきか、手順的な部分や流れでこういうふうにやるとうまくいくんじゃないかみたいな部分はありますか。

曽和さん

基本的には「未経験者歓迎」と書いてない限り、未経験者は厳しいんです。なので、経験者のみの求人に応募するのはちょっと無謀かなという気がします。

ではどうするかといえば、まずは紹介です。紹介だと人が間に入るので、ちゃんと根掘り葉掘り聞いてもらって、一緒に自己分析をしてくれます。

自分のやってきたことを全部オープンにエージェントやキャリアアドバイザーに話していくことによって「あなたのこの経験だったら、営業の経験はなくてももしかしたら営業職できるかも」と思ってもらえたら、エージェントやアドバイザーから企業側に対して推薦してくれることもあります

書類上では未経験としか見られない人が「会って見るか」と、面談につなげることができ、チャンスが生まれたりします

未経験者歓迎ではない求人へのアプローチ方法

リファラルを活用して会ってもらえる確率を高めよう

似たようなやり方としては、リファラルです。要は社員や内定者のネットワークを通じてそこから人集めをして、自社に適している人を探し出すというのがリファラル採用なんですけど。それを逆手にとってリファラル転職をやるのもあってですね。

リファラル採用をやっているような会社、もしくはやっていなかったとしても、そこの会社の社員に会って「僕は未経験なんですけどこういうのをやりたいんです。だからもしよかったら紹介してくれませんか」と言うと、リファラル採用をやってる会社だったら当然なんですけど、現場から紹介されてきた人に会わないなんてことはないわけですね。

人事から「いい人がいたら紹介してください」とお願いされて、実際にいい人がいたから人事に紹介したら「いやそういう人じゃないんですよね、こんな人だったらいいです」となると、誰も紹介をしてくれなくなるので、基本的には会うんですよね。そうするとそういう未経験という壁を越えることができるかも知れませんよね。

だから僕は未経験転職だったら、社会人でもOBOG訪問というのは有効だと思っていて。結構やる人いますよ。例えばメッセンジャーやFacebookなど、色々なSNSを使って辿ってきて「人材業界のこういうところに行きたいんですけど、曽和さんここにお知り合いいませんか」とコンタクトを取ってみたりね。

キャリアチェンジ転職の面接のポイント

キャリアチェンジについて語る曽和さん

編集者

例えば、未経験からプログラマーやエンジニア、デザイナーを目指そうとしたときに、まずは独学で勉強したりスクールに行ったりして、スキルを学んでから転職活動をする方が多いと思います。そういった、自分で学んできた方というのは、採用目線からはどう見られていくんでしょうか

曽和さん

めちゃくちゃいいですね。異業種・異職種転職とかポテンシャル採用ということは、何かやりたいけどまだできてないみたいな状況から入ることが多いと思うんですけど、その時に中に入ってからの頑張りに繋がるのは、本当にやりたいという根っこが生えているかどうかとだと思うんですね。

面接で「異業種異職種でやったことないけどやりたいんだ」ということが本気なのかどうかを確かめる方法があります。それは大体三つの質問を聞くんですけど、一つはきっかけ、一つは意見、一つは行動化です。

一つ目のきっかけは、「なんでそんなふうなことをやりたくなったのか」で、経験や出来事、環境、影響を受けた人などですね。「なるほどそんなことあったんだったらそれ本当にやりたくなるよね、じゃあ頑張ってくれるんじゃない」というようにプラスになるわけですね。

二つ目は意見を持っているかどうかです。やったことないかもしれないけども、「じゃああなたはこの業界をどうしていきたい」だとか「この業界の問題点はいったい何だと思う」とか「うちの商品サービスとか事業の方向性については何て思ってんだ」というふうに意見聞くわけです。それがあまり大した意見ではなかったら、「それ本当にやりたい?」みたいに感じてしまいますよね。

三つ目の行動化の一つが、先ほどもあった事前に独学してるかという点が関わってくるんですが。例えば、営業からマーケティングをやってみたいという方に「マーケティングについての何か勉強って少しでもいいからやっているんですか?」と尋ねたり、あるいは人事やったことない人が人事になりたいというなら、「ピント外れてるかもしれませんけど社会保険労務士の勉強を今していて」とか言うと、勉強やってるんだなとプラスになるわけですよね。

異業種異職種への転職希望者の中には、変な憧れで気軽にやってみたいと思ってただけで、実務が開始したら「やっぱり嫌だった」となってしまう人もいるんですよね。だから採用側は、根っこが生えているかどうかということを知りたい。そのために「きっかけ」「意見」「行動化」の3つを面接のときに確かめるんです。

自分自身のやりたいことが本当に根っこが生えているものかというのを知るためには、さっきの質問を自問自答してみればいいと思います

「きっかけ」「意見」「行動化」というのを自問自答してみることによって、自分も本当に異業種異職種転職する意味があるのかもわかりますし、採用側も本気かどうかわかるので、合格率が上がってくるはずです。

編集者

なるほど!全体概要の部分など、いろいろとなるほどと思って聞いていたんですけれども、具体的に行動したいと思ったときに、どういう順序でやっていくかというのは結構悩む方が多いんじゃないかと思いまして…どういう順序で取り組むべきでしょうか。

曽和さん

最初は、面談や面接まで進めるきっかけづくりが大切です。
未経験職の面接で語るべきこと3つ

キャリアチェンジ転職の面接でアピールすべきこと

編集者

まずは面談や面接まで進めるきっかけづくりが大事ということですね。では、直接話せる機会があったときはどのようにアピールするとよいでしょうか?

曽和さん

未経験者の良い点というのは変な色がついてないところだったりします。なので「経験したことないから御社のやり方に徹底的に適応していきますよ」というのをアピールすると良いかもしれませんね。

例えば、僕が最後にいたオープンハウスでは経験者を採らなかったんですよ。不動産業界以外の方を採用していました。

理由は「不動産業界の中でもうちは特殊なマネジメントもしているし事業戦略もとってる」という背景から、下手に業界経験者よりもポテンシャルがある人をうち色に染めていく方がいいと考えている会社だったんですね。このように、経験者のデメリットみたいなことを考えているところもあるので、やり方に適応できるというのはアピールできると思います。

あと、採用目線で未経験者を採るメリットといえば、人件費を抑えられる点ですかね。未経験者だったら教えてあげる必要もあるし、実績も無いわけなんで市場価値としては高値がついてない状況ですよね。

だから「まずスタートはこのぐらいの給料からね」とか「これぐらいのポジションからね」ということになりうるわけですね。逆に言うと、未経験で異業種・異職種転職しようと思ったときには、今貰っている給料を下げることができるかというのは結構ポイントです。Shrink to Growとよく言ったりするやつですね。

キャリアチェンジしようと思ったときには、どうしても、もう一回素人に戻るわけです。今までもらってる給料は今の職種・業界での経験やスキルがあるから貰えるわけであって。前職を活かせるならまだ交渉の余地はあっても、ポテンシャル採用で全くの素人から始めるのであれば、初任給に戻る気持ちでも転職できるのかですよね。

でも、それがうまくいった暁には、元々やってた経験に、掛け算の今の経験があるので、実は希少価値が高まってグイッと伸びる可能性もあります

まさにそれがShrink to Growですよね。伸びるためにちょっとしゃがむこと、これができるかどうかがポイントかなと。だから「未経験で異業種異職種転職だけれども報酬が下がるのは全く許容できません」みたいなのは現実的じゃない気がしますね。
企業目線で見る「未経験者」を採用するメリット

キャリアチェンジ転職の面接で気をつけるべきこと

編集者

逆にこれはマイナスになってしまうようなことはありますか?

曽和さん

「僕はこの仕事に就けば何か変われるんじゃないか」など、変身願望がある人ですかね。環境が自分を変えてくれるというふうに、隣の芝生は青いというような受け身感覚で異業種・異職種で転職しようとしているのかなと感じると、低い評価になることが多いですね。

編集者

前回の「内定をもらうためのポイント」のお話の際に、候補者とWILLとCANが違うというお話をしていただいたと思うんですけども、そこに近いものがあるのかなと思ったんですが。

曽和さん

そうですね。要はWILLとCANがずれてるから、根拠なく「こっちに入ったら僕は変われるんじゃないか」と思うということなんだと思うんですよね。

だから、変身願望的な感じで言ってくれるよりも「僕がここに入ったらこういうところは苦労すると思う、ここら辺はまだ全然足りないところだと思うので一生懸命頑張らなきゃいけないと思ってます」と言ってくれた方が安心ですよね。

既にそれを認識して言語化できている点だけでも違います。そうではなく「何か入ったら急に変われる」と思っているとしたら、いやそんなことないから…大丈夫かな?みたいな不安の方が先に立ちますよね。

編集者

では、WILLとCANの話で考えたときに、未経験者にとって「できること」のイメージがしづらいのではと思ったのですが、どのようにアピールすべきでしょうか。

曽和さん

新卒採用のときもそうですけど「できること」ではなく、「できそうなこと」でもいいんですよね。だから「こういうことができるので、もしかしたらできそうかもしれない」というぐらいで良いんです。やっぱりあとは学習能力の面で、今はできなくても、できるようになる可能性がありそうなことを伝えていくしかないかなと

あとは、最後は「好きこそものの上手なれ」の姿勢で、やりたいという気持ちを「きっかけ」「意見」「行動」の切り口からきちんと証明して、本気度を伝えるということですかね。

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キャリアチェンジは年齢問わずに可能

未経験での転職に年齢は関係ないと語る曽和さん

編集者

年齢的な話で言うと、未経験で採用できないぞみたいなデットラインは存在しているのでしょうか?

曽和さん

年齢によって変わることはないです。例えば、最近の氷河期世代やシニアの採用でも未経験を採ってるんですね。これはリクルートジョブズの調査で2020年「就職氷河期世代の働き方に関する実態と意識」からわかるのですが、前職の職種と現職の職種では全く違う職種の割合も多いんです。

事務で見てみましょう。7割は前職と同じ職種からの転職なんですけど、残りの3割は全然違うところから来てます。また、営業でも6割は前職も営業職だった人なんですけど、4割は別のところから、専門職でも専門職といいながら30%は別のところからきてるとかですね。

就職氷河期世代の働き方に関する実態と意識

このデータは氷河期世代ですから、1970年〜1980年くらいまでの生まれの方々ですので、ちょうど40代前後です。特に最近は”リスキリング”と言って、新しい知識やスキルを学んでいくことも必要と言われてきていますので、新しい仕事へのチャレンジは年齢問わずに可能だと思います

編集者

ありがとうございました。