就職・転職の「適性検査」対策は可能なのか?合否に直結するのか?採用のプロが回答

就職活動や転職活動で適性検査を受けるように指定され、「これで合否が決まってしまうのかな?」と不安を感じていませんか。

本記事では、人事・採用のプロであり、適性検査の開発に携わったご経験もある曽和利光さんに、適性検査が採用にどのような影響を与えるのか、そして合格や内定に進むために対策することは可能なのかを教えていただきました。

お話ししてくれた専門家

株式会社 人材研究所

代表取締役社長 曽和 利光さん

リクルート、オープンハウス、ライフネット生命保険など、多種多様な業界で人事を担当。そのなかで培った経験と知識に、心理学を融合させた独特の手法が特徴とされており、多くの企業の人事部に採用関連のコンサルティングを実施している。累計2万人超の就職希望者の面接をおこなった「人事のプロ」。

そもそも、適性検査とは何のためにある?

編集部

選考を進める中で、適性検査を受けるように指示があるケースが増えてきました。求職者の立場としては、「何のために受けるのかな?」「この結果で不採用になったらどうしよう」と不安や疑問を感じることが多く、知りたいことがたくさんあります。そのあたりを、本日は曽和さんに色々と教えていただければと思います。

まず、そもそも適性検査とは何なのでしょうか?

曽和さん

適性検査は大きく分けて2つの種類に別れます。

一つは性格や判断傾向、価値観をみるようなパーソナリティテストです。もう一つは能力をみていくテストで、仕事の知識を問うものから一般常識を測るものまでさまざまあります。

適性検査 特徴
パーソナリティテスト
(性格検査)
性格や判断傾向、価値観をみる
能力テスト
(能力検査)
数学や国語、仕事にまつわる知識や能力をみる

適性検査で代表的なものは「SPI」ですね。SPIは「Synthetic Personality Inventory(シンセティック パーソナリティ インベントリ)」の略で、総合的な性格検査です。いろんな職種で必要とされることが多い、みるべきポイントを網羅的にみるテストですね。

そういう総合的なテストもあれば、ストレス耐性をみていく、アドバンテッジリスクマネジメントという会社の適性検査「インサイト」もあります。

ヒューマンロジック研究所という会社の「FFS (Five Factors & Stress)」は、人と人との相性をよくみるために作られています。

ほかにも、「スカウター」というネガティブな面をみるため適性検査もありますね。

このように、人材を分析しようとしたときに、切り口がすごくたくさんあるわけで、どの切り口を測るのか、そのコンセプトによって違いがあります。

どのような事柄をリスクとして考えるか、どのような人材を採用したいかによって、企業側がそれぞれマッチする適性検査を選んでいます。

適性検査の結果をもとに選考をする企業が増えてきた

編集部

なるほど。さっと調べただけでも20以上の適性検査があるようでした。これらは選考における合否に影響を与えるものなのでしょうか。

曽和さん

影響するかどうかといったら「影響します!」というのが答えですね。適性検査の結果を参考にする企業が増えていると言った方がいいかもしれません。

能力テストは、今も昔もずっと選考に影響していたんです。それにプラスして、性格適性検査もその初期スクリーニングというか、一次選考で結構使われるようになってきてるというのが動きなんですよ。

そもそも、少し前と今では適性検査の判断や、活用方法が少し変わってきています。

今まで、能力テストは外資系企業では英語だったり、一般企業では一般常識だったりなど、仕事内容に関わる能力テストで大まかにスクリーニングをかけるような使われ方をしていましたが、パーソナリティテストは面接のサポートとして活用されていて、合否に大きな影響を与えるものではありませんでした。

ですが、最近では性格まで含めて、適性検査で一次スクリーニングをかけるために使っている会社が増えてきています。

これは、人事の世界の中で「ピープルアナリティクス」と呼ばれている、勘と経験でやっていた人事を、できるだけ数字やデータに落とし込んで、統計的な解析から判断をする動きが、どの企業でも出てきていることが背景にあります。

「タレントマネジメントシステム」という人事データの総合的なデータベースみたいなものがありますが、簡単に使いやすいものが出てきて、分析がしやすくなってきたんですね。

この傾向は、Googleなどが火付け役だったりするんですけど、「プロジェクトアリストテレス」という、チームの生産性や離職率といったパフォーマンスを調べてデータ化をし、人事の成果を上げた事例を公開しています。

そこでわかってきたのが、能力やスキルも大事ですが、実はパーソナリティなど性格の相性がパフォーマンスや離職と関係があるということです

適性検査は中途採用でも増えている

中途採用ほど適性検査の結果を参考にする傾向が強まっている

編集部

人事もデータでやる時代になってきたんですね。今までの適性検査は新卒の就活で行うイメージが強いのですが、今のお話を聞くと、全ての採用に関わってくると言うことですか?

曽和さん

そうですね。逆に今は中途採用での適性検査が増えているのですが、これにも理由があります。

新卒採用の場合、まずは採用した後で配属を考えるやり方がほとんどです。一方で、中途採用は初めからどの部署のどのポジションで、誰が上司かがわかったうえで採用するので、相性をみるべき相手が確定していることが多いわけです。

そうすると、この上司の下で働く人を取るんだったら、今出てきた候補者のうちパーソナリティ的には誰があっているかを確認しやすいですよね。

中途採用でパーソナリティのテストをより厳密な選考に使うようになってきているのは、こういう背景がまずはあると思います。

適性検査の対策は可能なのか?

編集部

適性検査が合否に影響を与えるとなると「受かるために対策を取りたい」と考える方がいると思います。実際、適性検査対策をして、内定率を上げることはできるのでしょうか。

能力テストはどんな問題が出るかの心構えの対策がおすすめ

曽和さん

能力テストは対策した方がいいですね。一方で、パーソナリティテストは対策せずに素直に回答すべきだと考えています。

まず、能力テストの方から解説しますね。テストを作っている会社の方は「能力試験は対策しても変わらない」とは言うのですが、新卒の人や塾講師をしている人はスコアが高いです。これは、問題に慣れてるか慣れてないかというのが、点数に関係するわけですよね。

編集部

なるほど。学生の頃にやった学力テストのような問題に慣れているかですよね。社会人になって数年たち、その感覚を忘れていると、自分の実力を出しきれなくなりそうです。

曽和さん

そうです。対策はした方がいいと思います。とはいえ、対策による点数アップにも限度はあると思います。

例えば、数学が苦手だった人が急に短い転職期間の中で根本的な数学の力を高めるなんて無理ですよね。そういう意味では限界はあるでしょうけれども、問題への慣れによって自分が持てる力を最大まで発揮することはできると思います。

問題形式に対する心の準備は、世の中にいろいろな対策本が出ていますので、全くの初見でやるよりは、対策したほうがいいんじゃないかと思いますね。

パーソナリティテストは対策できない

編集部

パーソナリティテストは対策しない方が良いとのことですが、これはどのような理由ですか?

曽和さん

対策しない方が良いよりも、対策できないが正しいかもしれません。

対策しようと考えて回答していくと、自分を良く見せようとしているのがデータで現れ、「回答態度に問題あり」という結果が出てしまうからですね。意図的に選択肢を変えると、企業側にはデータにわかるようになっているので、内定には繋がらないですよね

パーソナリティテストは対策ができないようになっている

曽和さん

僕も適性検査を作る側を経験したことがあるので、もう少し具体的にお伝えすると、例えば「ライ・スケール」という、虚偽尺度があります。

このテストでは、選択肢に「私は嘘をついたことがない」みたいな項目があり、それにYesと答える人はいないかもしれませんけど、似たようなものをいっぱい入れ混ぜて、嘘がわかるような仕組みづくりをしています。

実際に適性検査を受けたことがある方は「似たような問題がいっぱい出てくるな」と思った人がいるかもしれませんが、これは回答の一貫性を図ってたりします

前に答えた内容を覚えることはできないと思うのですが、自分の本当の姿をベースとして回答している人は、自分らしい答えを選べばいいだけなので、一貫性が保たれるはずですよね。


ところが、そうでない人は「どういうキャラだっけ?」と思い出しながら回答するため、ずれた答えもたまに出てきます。すると、一貫性がなくなってきて、回答姿勢に問題があってデータに信憑性がないかもしれないという結果が出たりします。

こうした点から、性格テストはなかなか対策が取りにくいようになっているんです。多くの人は、ある設問にイエスと答えたらある尺度が伸びる、ノーと答えたら下がる、と考えると思うんですけど、実はもっと複雑に作っているテストもあります。


例えば、この問題にAと答えたら、ある尺度が0.3伸びて、別のものが0.2マイナスになって、そのほかが0.1減るという感じで、いろんな尺度に一つの質問が絡んでいるような、複雑な作り方をしています。

つまり、相手が意図通りに自分の結果を操作できないように工夫している仕掛けがたくさんあるのです。そのため、適性検査の回答は、何か性格を作ろうと思ってするのはやめた方がいいです。プロがいろいろ回答のズルの仕方を考えたうえで、先回りして落とし穴を用意しているわけですから。


中には完璧に何かを演じることができる人もいるでしょうけども、この場合は、演じた自分を評価されて受かっても、入社した後に苦労するのは自分なのを理解すべきですね。実際の社交性はそんなに高くないのに、テストの結果で社交性が高いということで、「君、営業ね」みたいな感じになって、「いや実は事務やりたかったんですけども」となると、結果的にミスマッチにつながります。

やはり転職で一番気をつけた方がいいのは、落ちることよりもミスマッチの会社に行くことの方が大変だということです。そういう意味で言うと、近年重視されている性格適性検査だからこそ、そこで自分を偽るのは「百害あって一利なし」な感じがします。性格テストは何も考えずに思った通りに答えるのが最善の策だと思います。

編集部

なるほど、理解しました。

適性検査は面接でわからないことを補完してミスマッチをなくすためにある

適性検査は面接でわからないことを補完してミスマッチをなくすためにある

編集部

ここまでのお話は、採用側が選考の精度を上げるために適性検査を導入していることがよく理解できたのですが、求職者側の目線で適性検査を受けるメリットはあるのでしょうか?

曽和さん

ミスマッチをなくすためと考えれば、双方にメリットがありますよね。

ここ10年ほど、人事の中で話題になっているのは、面接の精度が低いということです。その対策として、いろんな会社が「構造化面接」といって面接の内容を定型化しようとか、「ワークサンプル」といって実際に会社に入ってする作業を事前にやってもらうとか、そういった面接内容を補完する工夫を考えています。

インターンシップもそれに近いかもしれません。能力試験やパーソナリティテストも、面接精度の低さをカバーする方法の一つです。

適性検査を実施する会社は、採用のミスマッチをなくそうと思っているからこそ、コストをかけていますから。そのため、適性テストを受けるのは、企業と個人双方にとって、適切なマッチングのために良いことだと思います。

ただ、難しいのが、適性テストにはフィードバックがないので、「検査で何をみられていたんだろう」という疑問はつきまとうと思います。本当は企業が適性検査の結果をフィードバックしてあげればいいのにと思うんですけど。

自分のネガティブな部分は適性検査ではどのように判断されるのか?

編集部

よくわかりました。

とはいえ、自分の性格面、例えばストレス耐性やメンタル面に弱みを感じている人にとっては、やはりポジティブに受けられるものではないのかなと思います。ここはもう受け入れるしかないですかね?

曽和さん

受ける側からすると正直仕方がないですね。とはいえ、僕はその風潮は大丈夫かなと思っていまして。例えば「ストレス耐性」など、メンタルヘルスの問題です。

僕は健康保険組合のマネージャーもしていたので、メンタル対応とか全部してたんですよね。そこで思うのは、優秀な人がバーンアウトしていたみたいに、本当にどんな人でも弱ってしまう可能性があるんですよね。

あるいは、鈍感だったらできない仕事だっていっぱいあるわけで、感受性が豊かでセンシティブな性質が大事な仕事もあります。

そのため、「メンタル」とか「ストレス耐性」とかあまりにも言うがあまり、鈍感な人ばかりが集まってきて、ストレス耐性が強くなければ入れない会社になっていくと、結局採用力にも影響が出たり、会社の中の多様性も失われて、創造性にも影響が出たりします。

そう考えると、ネガティブ項目でスクリーニングをかけていくことは、企業側にとってもマイナスになったりします。

また、ストレスは人間誰しも感じるものなので、仕事内容と組み合わせて考えていくのがベターですよね。几帳面な人が曖昧で大雑把な仕事をやらなければいけなかったら、その場合はストレスを感じやすくなります。

例えば、「インサイト」というストレス耐性を測るテストがあります。これは耐性のあり・なしという、単純なことを測ってるわけではなく、いろいろなパターンのストレスに関する対応の仕方、という側面をみています。

「鈍感力」のようなものがあるパターンであったり、ストレス自体は感じやすくても、それに対して意味づけだったりセルフモチベートができる強みも持っていたり。

他にも、自己肯定感が強くて、楽観的でポジティブシンキングだから、ストレスをやり過ごすことができる強さもあります。回復力や、気分転換力があるからストレスに強いというのもあります。このように、ストレス耐性といっても、さまざまな見方があるわけです。

ストレス要因は会社とか仕事によって全然違うわけですね。飛び込み営業のストレスと、経理で1円たりとも間違っちゃいけないというストレスは、全く違う要因なのに、それに対するストレス耐性が同じパーソナリティの側面であるわけがないですよ。

ネガティブに捉えられがちなストレス耐性も仕事内容によって向き不向きがある

編集部

求職者や転職者からすると、ストレス耐性は、正直に答えてしまうと点数が低くなってしまうんじゃないかと不安になってしまいがちです。変に「大丈夫」と答えた方がいいのかなと迷ってしまって、信憑性の数値が悪くなってしまうこともあるのかなと。

そこもコミュ力と一緒で、ストレス耐性も実は解釈や定義がすごくたくさんあるので、適正検査は正直に答えて、自分に合った会社にうまく入った方が、自分のためにもなりますよねってことですよね。

曽和さん

それはそうですよね。採用時に出す履歴書とか職務経歴書と実は同じで、適性検査も「あなたがこれに答えたんですからね」ということで、後々配属にも全部響くわけですよね。

また、入社の後でも適性検査の結果は参考にされます。そう考えた時、自分と合ってない偽の姿で配属を決められたらしんどいですよね。実際は違うのに、「あなたすごくストレス耐性あるよね。飛び込み営業行ってこい」みたいな話になったりするわけです。

なので、適性検査に関しては対策をするのではなく、そのまま受けて欲しいなと思います。

編集部

わかりました。貴重なお話をありがとうございました。

まとめ:適性検査の対策は能力テストのみでOK

この記事で分かったことをおさらいしていきましょう。

一つ目は適性検査には能力面を測るテストと、性格面を測るテストの2種類あることがわかりました。

対策については、能力テストはどのような問題が出るかを知り、心の準備をしておく対策ができること。性格面を測るパーソナリティテストでは嘘の回答はバレてしまうため、対策が取れないことを説明してきました。

適性検査は求職者と企業のマッチング精度を高めるものであり、双方にとってメリットがあるものです。変に緊張したり対策を考えすぎたりせず、ありのままの自分で受験をするようにしましょう。