学生時代の就活では、面接をたくさん経験して自己紹介に慣れていた人も多いかと思います。しかし、中途採用となると実務経験をもとに自己紹介をする必要があり、何をどう話せば良いのか迷う人も少なくないはずです。
今回は人事・採用のプロである曽和さんに、面接における自己紹介の攻略法を教えていただきました。
新卒採用と中途採用で面接対策や自己紹介する内容は変わる?
編集部
今回は面接での自己紹介をテーマにお話を伺えればと思っています。
まず、そもそも新卒での就活と中途採用での面接に違いはあるのでしょうか?
曽和さん
新卒での就活と中途採用での違いについては、大きく変わる点はありません。
そもそも面接の役割とは、自己紹介をはじめ、さまざまな質問と回答からその人の持っている能力、性格、価値観、この3つを知り、入社後の未来でどう活躍してくれるかを推測することです。
これは新卒・中途どちらも変わらないのですが、違いがあるとすれば、ある程度キャリアを積んだ中途採用での転職活動では、この3つに実績がプラスされます。
能力、性格、価値観の3つは潜在的なものです。その土台をもとに仕事をした結果が実績や成果、その積み重ねがキャリアであるということです。
新卒の場合は実績など顕在化されたものがほとんどない状態の中で、将来的に良い実績を残してくれるような能力、性格、価値観を推測しないといけません。それに対して中途採用の場合は、キャリアが長ければ長いほど、能力・性格・価値観が顕在化された実績が多くなるわけですよね。
まとめると、中途採用ではより実績を重要視して深掘りしていく点で新卒面接と違いがあります。
自己紹介でアピールすべき自分の特徴を作っていく方法
編集部
新卒では能力、性格、価値観の3つのポイント、中途ではそこにプラスして実績がわかるようにアピールする必要があるということですが、それらを理解してもらう自己紹介の作り方について教えてください。
曽和さん
はい、順を追って説明しますね。
面接は自分を表現・アピールする場と言われますが、それだけだと足りません。面接に臨む前に、企業ごとにどのように自己紹介をしていくかの「下調べ」と「準備」が必要となります。
よくある陥りがちな失敗として、自分の好き嫌いで自己紹介の内容を考えてしまうことがあります。
面接の基本は「企業側が求めているものを自分は持ってますよ」と伝えることです。ところが多くの人は”企業側の求めるもの”を考えず、自分の特徴を言ってしまいがちです。
もう少し具体的に話すと、自分の特徴を考える中で、自分が好きな特徴を「強み」とし、自分の嫌いな特徴を「弱み」としてしまう。そして、その強みをアピールポイントだと考えてしまいがちなんですね。場合によっては、自分が強みだと思ってる特徴が、企業からすると弱みに見えることもあります。
例えば、僕は生命保険会社の人事部長をしていたときに、好奇心が強すぎる人は向いていないと考えていたので、あまり採用しませんでした。保険の事務をやろうと思ったら、コツコツと飽きずにやっていくことが大事なんです。
なので、「新しいことにチャレンジしたい」といった好奇心旺盛なタイプだと続かないことがあります。ただ、好奇心が旺盛というのは一般的には強みとして捉える人が多いわけですよね。
このように、自分が良いと思っていた特徴が、相手からすると欲しくなかったり、マイナスと捉えられることもあるわけです。
特に中途採用の場合は基本的に職種別の採用になるわけですから、求められる能力っていうのは推測しやすいですよね。その「求められてるものを自分は持ってます」と考えて、まずアピールすべき特徴を考えるというのがまず準備すべきところです。
編集部
なるほど、自分が持っている特徴の中から企業が求めるものをアピールしていくわけですね。
曽和さん
そのとおりです。ですが、単純なアピールでは面接官に響かないので、企業が求める能力を自分が持っていることを、過去の実績や経験をもとに証明する準備が必要です。
例えば、その企業に求められている力を分析した結果、「やり切る力」「目標を達成する力」「好奇心」などが重要だった場合、ただ単に「やり切る力があるところが強みです」と言っても、説得力はありません。
というのも、面接官は基本的に「事実しか信じるな」と教えられるからです。
基本的には、自己紹介での言葉を鵜呑みにすることなく、事実を提示してもらって、そこから「なるほど。そういう実績があるなら、確かにその能力、性格、価値観は持っているんだな」「その実績や経験があるなら、欲しい人材に当てはまるし良いんじゃない」という思考をするわけですね。
ですので、過去の仕事の経験から「どんなところでその力を活かせたか」を例としてだし、必要なデータを提供するというのが、面接で行うべきことということです。
まとめると、まずは相手が求めてるものを分析し、自分が持っていると伝えるメッセージを考える。そして、そのメッセージを証明できる仕事実績を用意しておくことですね。
それを面接の自己紹介のときに話したり、職歴書に書いたりすることによって、相手が「この人は弊社に合っている」と思ってくれるでしょう。
第一印象とその後の印象が違うと感じる人は先に誤解を解くと良い
編集部
なるほど、よくわかりました。他に、事前に準備しておくと良いポイントはありますか?
曽和さん
おすすめしているのは、自分がどのように誤解されやすいかを認識しておくこと。なぜこれを知っておくべきかというと、面接時に誤解が生じたときに役立つからです。
面接は初対面なので、短い時間の間で印象に左右されやすく、第一印象に引っ張られて誤解が生まれ、精度が下がる場合があります。主観的な自分と客観的な自分の印象が同じであれば全く問題ないのですが、「本当の自分」と「見られがちな自分」にズレがあった場合は、自分がどのように誤解されやすいか面接時に伝えておくのがベスト。
自己紹介のときに「私はこのように見られがちなんですけど、実は違います。例えばこんな場面ではこういうことをしてきました」という感じで、最初から誤解を解くことができます。
自分がどのように誤解されやすいかは、面接を受けるときには絶対に知っておいた方が良いので、エージェントであったり、友人、上司などに、自分の第一印象のフィードバックをもらってみてください。
「自己紹介」はシンプルに事実を述べるだけでOK
編集部
次に、準備段階で決めたエピソードを面接の場でどう話していくかなのですが、「まず自己紹介をお願いします」と言われた時は、何から話すべきでしょうか?
曽和さん
基本的に中途採用での自己紹介は、事実を時系列できちんと言えば大丈夫です。
例えば、僕がセミナーでお話をさせていただくときに、「皆さんこんにちは。『人材研究所』という人事コンサルティング会社を代表してます」っていうのは、今の現状であり事実ですよね。
そして、「元々は人事の実務をずっとやってて、42歳ぐらいまでリクルート、ライフネット、オープンハウスで人事・採用の責任者やっていました。その後、10年前に会社を立ち上げて、今は20人ぐらいの会社をやってます」と、事実を時系列で話します。
このように事実を時系列で言えばOKです。後で面接官が質問しやすいように、「何年間やってきたか」「自分のコアの経歴がどれか」ということは入れてみてください。
反対に、抽象度の高い「私はこんな人で、やり切る力のある人です」「どんなつらい目にあったとしても最後までやり切ります」「想定外のことがあったとしても、試行錯誤して乗り越えて目標を達成する、それだけは誰にも負けません」みたいな自己紹介はいりません。
その人がどんな人なのか、を事実から考えるのが面接官の仕事なので、こちらからいう必要はないです。
まとめると、「私はこんな人です」ではなく、「私はこんなことをやってきた人です」を語っていただくのが大事だと思います。
自己紹介で話す内容は2〜3分がベター
編集部
シンプルでわかりやすいですね、これであれば実行できそうですが、こんなことやってきましたというのを、どのくらいの長さで話していくべきでしょうか?
曽和さん
あまり短すぎるのは、面接官的につらいかなと思います。30秒で終わってしまうようだと短くて、大体2〜3分、つまり600文字から900文字ぐらいがちょうどいいですね。
面接官は初対面の中で相手の能力・性格・価値観を理解していかないといけません。情報量が少ないと取り付く島がなく、質問もなかなか出てこないので短すぎるのは面接官的につらいのです。
特に中途採用の場合は、面接に慣れている人事ではなく、現場のリーダーやマネージャーが借り出されていることも多いです。そのような場合に軽い自己紹介だけされてしまうと、「さてどこから聞いていけばいいんだろう」「どこから聞いていくと、この人の能力、性格、価値観のコアな部分がわかるんだろう」というのが、全く手がかりがないまま進みます。
「履歴書と職務経歴書に書いてあるだろう」と思う人もいるかもしれませんが、履歴書や職務経歴書では情報量が多すぎるんですよね。
中途採用の面接は基本的に30分~1時間しかないわけですから、新人の頃の話からひとつずつ聞いていく時間もありません。
その人のライフヒストリーも知りたい情報にはなりますが、それよりも企業が求めることを証明できる実績を聞いて欲しいと相手に伝わるように話すのが良いでしょう。
例えば私だったら、「40歳ぐらいまでは人事の実務をやってました」と話しますが、この中には総務、広報、健康保険組合のマネージャーの経歴もあります。
ですが、それらはコアな部分ではないので、「採用、教育といろいろやってきたんですけども、その中でも一番長かったのは採用ですかね」と言ったりすると、「一番長かった採用のことを聞きましょうか」と相手もわかってくれます。
そして、自己紹介では重軽をつけて話すことが重要です。重軽をつけずに単に要約して話してしまうと、重要な部分が十分にアピールできないことがあります。
そのため、数年のキャリアの中でどこを聞けば良いか、面接官が見立てをできるように話をした方が良いです。
後は、話が長い人と思われるのでは?と気にされる方も多いと思います。
でも、面接の合否を決めるときに話が長いという理由で落ちることよりも、「情報が足りなくてよくわからない」という理由で落ちることの方が多いんですね。
なので、自己紹介は企業側が知りたいであろうことを中心に、2〜3分話せる情報を準備していくことをおすすめしています。
一次・二次…面接での自己紹介内容はフェーズにより変えるべき?
編集部
自己紹介をした後は、面接官の質問に答えながら選考面接を進めていく流れが一般的かと思います。そして選考では、一次面接・二次面接・最終、と複数回の面接があるケースもあると思います。
そうした場合、自己紹介であったり話す内容はそれぞれ変えていくべきなのでしょうか?
曽和さん
基本的には同じでも構いません。
ただ、選考によって企業側が見たいポイントが変わってくるため、面接でどのような質問が来るかは変わってくると思います。そこを理解した上で調整をしておくとさらに良いかなと思います。
まず、一次はスクリーニングなので、基礎能力を見ます。例えば言っていることがわかっているか、聞いたことを答えてるか、論理的かどうか、イメージできるか、応募者の印象とかなどをチェックする感じですね。
二次面接ではマネージャーや人事など、人を見る仕事をしている人が面接に入ってくるので、性格や能力、会社のタイプに合っているのかなどを見ていきます。よく言うのは、「肉食と草食だったらうちは肉食だが、それに合ってるのか」というのを見られるわけです。
最終面接は粒揃いになってくるので、レベル感や程度を見ます。たとえば、肉食タイプの中で猫レベル、ハイエナレベル、チーターレベル、トラレベル、ライオンレべルみたいなレベル分けをして、その中で上から採用していく流れです。
まとめると、初期は基礎能力のスクリーニング、中期が能力・性格・価値観のタイプ分け、最後がレベル感という感じで見られていきます。
選考フェーズが進むにつれて、この領域の質問が多いなと感じる部分があれば、より深掘りして回答ができるように準備をしていき、自分のレベル感を理解してもらえるようなことが言えると良いですね。
最終面接では志望度をアピールできると良い
曽和さん
もう一つ、選考が進むにつれて、重要視されるのが志望度です。
実は、選考の初期段階では志望度はそんなに重視されません。最近だと「スカウト採用」というのもあって、企業側からスカウトメールで呼ばれたから来た場合や、キャリアアドバイザーから勧められたから来た人もいるわけですね。
初期選考の段階で優秀だけど志望度が低い人がいたら、逆に企業側が志望度を高めるために、情報提供をすることもあります。
ただ、最後の最後は志望度を重視します。なぜなら、同じような能力の人が2人いたら、動機が強い方が成果を上げる可能性が高いので、「同じ能力だったら、モチベーション高い方がいいよね」となるからです。
まとめると、一次面接では事実をベースに、問題・対策・結果・環境・思考・苦労の部分を伝えていき、二次面接ではそれによって自分がどのような能力・性格・価値観を持っているかを証明する。3次では、それらに対しての熱量をより具体的に伝えていけるかがポイントになってきます。
編集部
そうなると、基本的に話すエピソードの部分は同じで、切り口や伝え方を変えていくような形になると思うのですが、面接で毎回同じような話をするのは問題ないでしょうか?
曽和さん
全く問題ないですね。
面接官のほとんどは忙しく、書類をじっくり見て臨む人は少ないと思います。面接官が違うならば、話が被ること自体そんなに問題はないですし、その同じ題材であったとしても、先ほど言ったように注目してるところが違うわけですよね。
その話をしてる構造に注目してるのか、内容なのか、程度なのか。注目ポイントが変わってくるので、面接官の反応や質問も変わってきます。一番いい話は一つだと思うので、それを一貫して話すのも別におかしくないです。
編集部
よくわかりました、ありがとうございます。
次のパートでは自己紹介の次のステップとして「質問」について教えていただければと思います。