企業の特色あるワークライフバランスへの取り組みにスポットを当て、その魅力を探るこの企画。今回はファッションロスの観点でサステナブルな社会づくりに取り組む、株式会社ウィファブリックを取材しました。
株式会社ウィファブリックは、アパレル業界の廃棄課題解決に挑むベンチャー企業です。2017年にスタートした主力事業のサスティナブルアウトレットモール「SMASELL(スマセル)」は、メーカーが出品するデッドストック商品や廃棄予定の商品を、ユーザーが安価で購入できる仕組みとなっており、2024年に出店社数1,200社、ユーザー数約25万ユーザーを超えるまでに成長。
「SMASELL」は廃棄処分削減に取り組む企業と、お得に商品を購入したいユーザーをつなげる共創型マッチングプラットフォームとして双方より高い評価を得ています。
服の流通におけるCO2削減量を可視化するなど、業界全体を巻き込み、廃棄のない循環型社会を目指す同社は、代表の福屋剛氏がファッションロスの課題解決を目的に2015年に設立。2019年にはForbes Japanの「日本のインパクト・アントレプレナー」にも選出され、現在、繊維ファッション業界の廃棄課題解決のパイオニアとして注目を集めています。
2024年8月に株式会社ウィファブリック初となるリアル複合施設をオープンした同社は今、新たなフェーズに突入。そこで今回は、今後の展望やサステナブルな社会への思い、ワークライフバランスの取り組みなどについて、代表取締役の福屋剛さんにお話を伺いました。
SDGsを体験できる複合施設「SMASELL SUSTAINABLE COMMUNE」をオープン
▲「SMASELL SUSTAINABLE COMMUNE」のレセプションパーティー
編集部
ウィファブリックさんは、オンラインのアウトレットモール「SMASELL」に加え、2024年8月に実店舗をオープンしたと伺っております。まずはこちらからお話をお聞かせください。
福屋さん
わかりました。大阪・北加賀屋にオープンした複合施設「SMASELL SUSTAINABLE COMMUNE」は、ファッション、インテリア、アート、家庭雑貨、食品を取り扱う7つのショップとカフェがあるショッピングモールで、衣食住を楽しみながらSDGsを体験できる複合施設となっています。
編集部
「SMASELL SUSTAINABLE COMMUNE」は衣食住を楽しみながらSDGsを体験できる施設とのことですが、具体的にはどのような内容なのでしょうか。
福屋さん
「ショッピングモール × カフェ×ライブハウス × ギャラリー」という、これまでにない新しいコンセプトを持った複合施設です。例えば、ロンドンバスがカフェになっていたり、ライブステージを常設することでライブとショッピングを同時に楽しむことができます。
また、ピクチャーレールを設けた白壁はギャラリー機能も成しているので、大型作品の展示も可能です。このように、ショッピング、食、音楽、アートなどが1つどころに集約される「SMASELL SUSTAINABLE COMMUNE」は、テナント、サービスともに全て環境に配慮した内容になっており、SDGsにおけるコンセプチュアルな場所になることを期待しています。
▲施設内の「SMASELL CAFE」で提供している、人にも環境にも優しいメニュー
編集部
今後、予定しているイベントについてもお聞かせいただけますでしょうか。
福屋さん
ライブイベントやフリマイベントは定期的に開催していきます。他にはファッションロスを楽しみながら解決することを目的に、服の釣り堀「ファッションフィッシング」の構想を練っているところです。利用料2,000円ほどで家族で楽しみながら服の釣り体験ができ、有名ブランドを釣り上げたら大当たりというコンテンツを考えています。
また、社内イベントとして定期的に開催していた「洋服交換会」を、「SMASELL SUSTAINABLE COMMUNE」のPOP UPイベントとして定期開催し、服だけではなく、お子さんの使わなくなったおもちゃや、絵本を交換できる場にしていきたいですね。
編集部
まさに子供から大人までSDGsを楽しみながら体験できる施設なのですね。
廃工場や不要になったロンドンバスをアップサイクルした施設
編集部
「SMASELL SUSTAINABLE COMMUNE」は、建物自体も既存の建物をリノベーションされたと伺っております。どのような意図、狙いがあるのでしょう。
福屋さん
建物はもともと、2020年12月まで鉄骨や製罐、大径鋼管を製作、修理する鉄工所として稼働していました。廃工場となった建物を再利用するに至ったのは、当社が掲げる「ファッションをもっと楽しく、持続可能なものに。」という企業理念に起因します。
価値のなくなったものに価値を付け、再流通させることをミッションとする当社は、ファッションだけではなく、使われなくなった施設を再生することで街の活性化や働く環境の再構築につながると考え、この建物を選びました。
何より、ものづくりが行われてきた歴史とストーリーが残る建物と街の雰囲気が、「SMASELL SUSTAINABLE COMMUNE」にふさわしく、新しく建物をつくるよりも、かっこいいものをつくることができると思いました。
編集部
なるほど。内装やテナントに関しても、サステナブルへのこだわりがあるのでしょうか。
福屋さん
施設内のカフェスペースは廃車になったロンドンバスをアップサイクル(※)をして使用したり、内装に使用している木材は端材を活用したりして、家具類のほとんどがビンテージやリユースされたものを使用してます。廃工場同様、価値が薄れてきたものに価値を付与し、その場所に人が集まってくることにより、街が新たに作られていくことを目指しています。
(※)アップサイクル:廃棄物や不要になったものに手を加え、そのモノの価値を高めること
2025年開催予定の大阪・関西万博への出展参加企業に選出された当社は、万博会場に来場された方にも「SMASELL SUSTAINABLE COMMUNE」を知っていただき、足を運んでいただけるよう、施設の映像を会場に投影する演出を考えています。
編集部
建物そのものがサステナブルであり、モノとコトが循環・還元できるような場所になっていくというわけですね。
ユーザーとのコミュニケーションを目的としたクラウドファンディングによる資金調達
▲「SMASELL SUSTAINABLE COMMUNE」のレセプションパーティー
編集部
「SMASELL SUSTAINABLE COMMUNE」は、クラウドファンディングで資金を調達されたと伺っております。さまざまな資金調達の方法があるなか、ウィファブリックさんがクラウドファンディングを選ばれたのはどのような理由からなのでしょう。
福屋さん
より大きくサステナブルな活動を行うには、ユーザーとのコミュニケーションが必須です。この点において、クラウドファンディングの良い点は、出資者にファンになっていただけることです。
出資いただいた方は実際にお客様としても施設に足を運んでいただき、われわれの事業と共に成長していただけるパートナーになってもらいたいと考えています。
今回のクラウドファンディングでは本当にたくさんの方々に支援していただき、無事に「SMASELL SUSTAINABLE COMMUNE」のオープンに漕ぎ着けました。感謝の気持ちを込め、出資いただいた方をオープニングのレセプションにお招きし、一緒に楽しむことができました。
ウィファブリックの「必要な人に必要な衣服を届ける」理念
▲サスティナブルアウトレットモール「SMASELL(スマセル)」
編集部
福屋さんはウィファブリックを設立する以前は、約10年間にわたって繊維の商社に勤められていたとのことですが、服のデッドストックの大量廃棄が引き起こす深刻な環境問題について、当時から危機感を抱いていたのでしょうか。
福屋さん
商社勤務時代、僕自身も大量に物を作ってはデッドストックを生み出し、ときには捨てることを行っていました。年間3,000億着以上の服が捨てられている実情を目の当たりにし、そのようなムダの多い業界を変えたいという思いから起業を決意し、オンラインのアウトレットモール「SMASELL」をオープンしました。
ファッションロス問題を解決することを大前提に、最終的には靴が履けない人がいる発展途上国など、服や靴を必要としている人たちに安価に届けられるプラットフォームを作り、拡充させることを目指しています。
編集部
SMASELLのサービスサイトでは、各アイテムごとの重量や組成素材に応じたCO2排出量が見える化されています。これにより、利用者はファッションロスを自分ごととして捉えることができますね。
福屋さん
ありがとうございます。CO2排出量をサービス開始当初は表示していなかったのですが、われわれが「SMASELL」を運営する目的を明確にするため、表示するようにしました。
また、当社はファッションロスの問題だけではなく、その先にある気候変動の問題とも闘っている企業です。アイテムごとにCO2排出量を表記することで、「あなたが購入することで、社会問題を変えているんだよ」ということを意識していただきたいという思いもあります。
「SMASELL」の成長とともにユーザー・出店ブランドの行動も変わってきた
▲過去に開催したファミリーセールの様子。ユーザーの意識も確実に変わっている
編集部
「SMASELL」の運営を通し、利用客の意識が変わったなど、実感することはありますか?
福屋さん
入口としては、最初は安くて良いものが購入できるという理由で「SMASELL」を利用される方がほとんどです。利用いただくうちに当社の理念に共感いただき、ファッションロスについて真剣に向き合うようになり、サステナブルをテーマに事業を立ち上げられたママさんもいらっしゃいます。
また、「SMASELL」に出店するブランド様のなかには、当社と出会ったことを機にこれまで大量にあった服の廃棄をゼロにする宣言を掲げられたケースもあります。このような変化を前にすると、われわれの取り組みがファッションロスや環境問題への行動変容を促せていると実感し、嬉しく思います。
編集部
ユーザー側は安価に良いものを購入できるだけではなく、CO2排出量の削減に貢献でき、ブランド側としてもビジネスとして成り立たせられることが、「SMASELL」の人気につながっていると感じました。
行政の取り組みでファッションロス削減の意識も高まっている
編集部
社会全体のファッションロスに対する考え方の変化を感じることはありますか?
福屋さん
脱炭素社会の実現や資源循環に向けた取り組みを推進することを目的に、環境省と一緒にさまざまなイベントをさせていただくのですが、その際に示すファッションロスの問題に関するデータが、2017年ごろまでは全くありませんでした。
2015年9月に国連で採択されたSDGsもまだ浸透しておらず、ファッションロスそのものが当時は危機意識として醸成されていなかったため、データとして提示できるのは一部の大学の教授が書いた論文のみ。われわれがどんなにファッションロスが招く環境破壊について声を上げても、なかなか目を向けてもらえなかったのが実情でした。
その後、徐々にSDGsへの取り組みや環境への意識が高まり、環境省でもファッションロスを削減するためのサイトを立ち上げるなどの施策に乗り出したことがターニングポイントになったと分析します。
やはり、行政がしっかり取り組む姿勢を見せることにより、一般の方々にファッションロスに対する知見が広がることを切実に感じました。そういう意味では、行政に動いてもらうことでファッション業界全体の環境への意識は、この数年で大きく高まったと感じています。
サステナビリティをエンタメのように楽しむ場を提供していきたい
編集部
社会全体の流れとして、環境に良いものを購入したり、廃棄処分をなくすエシカルのような取り組みを、かっこいいとする風潮に変わってきていると感じるのですが、福屋さんはどう思われますか?
福屋さん
「SMASELL」に寄せられたユーザー様やブランド様の声、行政の取り組みを見ると、少しずつではありますが変化を実感しています。とはいえ、まだまだ日本はエシカルの文脈で言うと、行動変容を促しづらいマーケットであると言われています。
例えば、国内においてヴィーガンのパンを販売すると「環境や体には良いかもしれないけれど美味しくないのでは?」という先入観がどうしても出てきます。これには国民性も大きく関係しており、「美味しいものが食べたい」という想いが先に来ることが理由と思われます。そのため、ビジネスとして成り立ちにくいのが実情です。
編集部
そのような日本人の国民性を理解したうえで、新たな取り組みとなるSDGsを体験できる複合施設「SMASELL SUSTAINABLE COMMUNE」では、どのようなことを意識され、運営されるのでしょうか。
福屋さん
今回オープンした施設の運営においてわれわれが意識しているのは、美味しい、楽しい、嬉しいという直感的な感覚でも楽しみながら、少しその先に気づきがあるような施設にしたいということです。
教育の側面もあるサステナビリティを、「こうするべき」と押し付けるのではなく、エンタメとして楽しみながら社会にプラスの変化がある体験を提供していきたいと考えています。
編集部
上から目線で啓蒙するのではなく、商品として魅力があり、かつ、使い勝手が良く、安い価格で手に入るものを提供しながら、ファッションロスの考えを伝えていくということですね。
福屋さん
おっしゃる通りです。やはり、ファッションはおしゃれでかわいいもの、食事は美味しくなければどんなに環境に良くても人の手にはなかなか届きません。
われわれだけでできることには限界があるので、アパレル、食とそれぞれの産業で活躍されている方やブランドを「SMASELL SUSTAINABLE COMMUNE」に集結させ、そのコラボレーションにより大きなインパクトをもたらしたいと考えています。その思いを、COMMUNE=共同体という名前にも込めました。
編集部
おしゃれでかっこいい服、美味しい食事と、環境を結びつける場所が「SMASELL SUSTAINABLE COMMUNE」なのですね。
2028年の上場を目指す、ウィファブリックのOtoOビジネス
編集部
ウィファブリックさんでは、大阪を皮切りに、東京でも「SMASELL SUSTAINABLE COMMUNE」2号店の建設を進める計画と伺っております。IPOの準備も含め、中長期的な今後の展望についてお聞かせください。
福屋さん
我々は、2028年の上場を目指して活動しています。
今後はオンラインの「SMASELL 」と実店舗の「SMASELL SUSTAINABLE COMMUNE」をつなぐ、OtoO(※)を具体化するフェーズに入っていくことが予想されます。オンラインのモールをリアルな複合施設で展開する前例はあまりないので、そういう意味では体系としてかなり面白いものになると確信しています。
(※)Online to Offlineの略で、ウェブからリアルの実店舗に誘導する手法を指す
リモート中心のウィファブリックのワークスタイル
編集部
続いて、ウィファブリックさんのワークライフバランスへの取り組みや働き方について伺います。現在、御社には何名の方が在籍されているのでしょうか。
福屋さん
設立当初は3名からスタートし、現在は外注さんも含め、15名ほどが運営に携わっています。「SMASELL SUSTAINABLE COMMUNE」のオープンに伴い、人員を増員する予定があるため、今後は30名ほどの組織になると思われます。
本社オフィスを「SMASELL SUSTAINABLE COMMUNE」内に移転し、東京オフィスも渋谷から麻布台に移転したので、これからジョインされる方はそのいずれかに所属していただきます。
編集部
ウィファブリックさんではどのような勤務形態になっているのでしょうか。
福屋さん
基本的には、月曜日を出社日とし、火曜から金曜はリモートワークとなっています。フルリモートワークの人も多く、特に子供がいるメンバーはチャットとオンラインミーティングを駆使しながらフルリモートで業務にあたっています。
また、エンジニア職や開発デザイン職もほぼ、フルリモートワークになっています。子育て世代も含め、趣味の時間や副業など、プライベートを大切にしながら仕事もしっかりこなせる環境が整っていることが、当社が取り組むワークライフバランスの特徴です。
“家族ファースト”のウィファブリック。家庭環境に合わせて働き方を選べる
編集部
育児と仕事の両立、もしくは副業や趣味に割く時間を大切にしたいなど、さまざまなメンバーがジョインしていることが伺えるウィファブリックさんですが、メンバーから、働きやすさについて、声が寄せられることはありますか?
福屋さん
前職と比較し、働きやすい環境であるという声が届いています。例えば、子供の体調不良で急遽、在宅勤務になる場合も、チャットで伝えてもらえればOKとしています。
出社勤務の方がパフォーマンスが上がることは多少あるかもしれませんが、人の目があろうがなかろうが、結果、自立した方がパフォーマンス向上につながると思っています。また、家庭がうまくいっていないと仕事は絶対にうまくいかないので、メンバーには家族ファーストを大切にすることを伝えています。
クリエイティブ職は地方からのジョインが可能
編集部
ほぼフルリモートのエンジニア職や開発職、デザイン職の場合、ウィファブリックさんでは居住地を大阪や東京に限定せず、地方からのジョインも可能なのでしょうか。
福屋さん
可能だと思います。大阪在住の私は、東京のメンバーとリアルに会うことはほとんどなく、コミュニケーションや会議は毎週オンラインミーティングで行っています。
営業職や管理部署の場合は本社がある大阪に居住することになりますが、エンジニア職や開発職、デザイン職などのクリエイティブ職は、物理的にどこに住んでいるかはあまり関係ありません。
経歴に縛りを設けていない当社は、ファッション業界出身者と異業種出身者がちょうど半々という組織になっています。異業種においてはIT領域の業種が多い印象です。今後は外国籍の方も含め、さまざまなバックグラウンドを持った方を積極的に採用し、多様性をもたらしていきたいと考えています。
編集部
働き方や働く場所も含め、ウィファブリックさんが柔軟にワークライフバランスの向上に取り組まれている様子がよくわかりました。
ウィファブリックは「楽しみながら社会を良くしたい」人を歓迎
編集部
ウィファブリックさんのエシカルに配慮した事業や、SDGsへの取り組み、柔軟性が高い働き方に興味を持った読者は多いと思われます。最後に、転職を検討している読者に向け、採用におけるメッセージをお願いします。
福屋さん
「ファッションをもっと楽しく、持続可能なものに。」を理念に掲げる当社には、社会課題を解決しながら楽しく働ける環境があります。今後、複合施設「SMASELL SUSTAINABLE COMMUNE」を立ち上げるにあたって、オンラインとリアル店舗の両方を学べる機会も新たに加わりました。
われわれの理念に共感し、共にサステナブルな社会を目指す方とぜひ、一緒に働きたいと考えています。2028年の上場と共に、ファッションロスをゼロにする社会を目指しましょう!
編集部
「SMASELL SUSTAINABLE COMMUNE」のオープンや、大阪・関西万博への出展参加など、ファッションから持続可能な社会づくりに取り組むウィファブリックさんには、トレンドと環境の両面からアプローチする、意義のある働き方があることを今回の取材を通して強く感じました。
本日はありがとうございました。
株式会社ウィファブリックの基本情報
会社名 | 株式会社ウィファブリック |
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住所 | 大阪府大阪市住之江区北加賀屋5丁目5-26 SMASELL Sustainable Commune内 |
事業内容 | アパレルのオンラインマッチングプラットフォーム運営事業 |
設立 | 2015年3月9日 |
公式ページ | https://www.wefabrik.jp/ |
採用ページ | https://www.wefabrik.jp/recruit |