“ご当地サイダー”の木村飲料株式会社に根付く挑戦文化と“脱・属人化”への取り組み

成長著しい企業を、ワークライフバランスの観点で探るこの企画。今回はラムネ、サイダー、酎割り用サワーなどを生産する、静岡県島田市に本社を置く飲料メーカー、木村飲料株式会社を取材しました。

ご当地サイダーを展開する木村飲料株式会社

木村飲料株式会社の食品安全方針と商品一覧

木村飲料株式会社は1947年の創業以来、ラムネをはじめとした炭酸飲料の製造・販売を主力に事業を展開している飲料メーカーです。「一味違う」「面白い」と評価され、同社の名を世に知らしめたのが、「うなぎコーラ」「しずおか茶コーラ」などの「変わり種サイダー」です。

静岡県をはじめ、各地域の名産品とコラボした「ご当地サイダー」は観光地の売店やサービスエリアなどでおなじみとなっています。独創的な「変わり種サイダー」はメディアに多く取り上げられ、瞬く間にヒット。その商品開発力と斬新なアイデアで、独自の市場展開と販路を築いています。

会社名 木村飲料株式会社
住所 静岡県島田市宮川町2429番地
事業内容
  • 清涼飲料水(炭酸飲料、果汁飲料等)の製造販売
  • 酒類の製造、販売及び酒類小売
設立 1953年
公式ページ https://www.kimura-drink.net/

自社商品開発のほか、PB/OEM、海外向け商品の製造・販売を手掛ける木村飲料株式会社が成長し続ける背景にはどのような企業風土やカルチャーが根付いているのでしょう。常務取締役の木村祥吾さんに詳しくお話を伺いました。

本日お話を伺った方
木村飲料株式会社常務取締役の木村祥吾さん

木村飲料株式会社
常務取締役

木村祥吾さん

トップクラスのビン入り炭酸飲料の商品開発力を誇る木村飲料

木村飲料株式会社のラムネ製造ラインの様子

編集部

創業から70年以上にわたって、ユニークかつ、独創的なオリジナル商品を次々と開発するなど、業界内に独自のポジションを築いている木村飲料さんですが、改めて、御社の事業の特徴についてお聞かせください。

木村さん

「富士山サイダー」や「しずおか茶コーラ」など、静岡を中心に、ご当地の魅力をつめ込んだ地域性豊かな商品を開発・販売する当社は、自社ブランド(NB)、PB/OEM製品、海外輸出と3つの事業を展開しています。

編集部

創業から現在に至るまでの、木村飲料さんの歩みをお聞かせいただけますでしょうか。

木村さん

当社のルーツは、創業者の木村伊三郎が戦後間もない1947年に始めた、ビン入りラムネにさかのぼります。当初は昔ながらのビン入りのラムネや、お酒を割って飲むための割り材などを製造・販売していたのですが、2007年にユニークラムネ、2010年にご当地サイダーを販売したことを機に、さまざまな自社開発の商品を展開、現在に至ります。

静岡県内にはかつて30社ほどあったラムネ屋さんですが、現在は当社のみとなっています。最盛期は全国に2000社ほどラムネメーカーがありましたが、時代の流れとともに減っていき、社長の木村英文が会長を務めている全国ラムネ協会の会員数も現在は約33社となっています。

ユニークラムネ&ご当地サイダーでニッチな市場を攻める木村飲料

木村飲料株式会社のラムネ製造ラインの様子

編集部

ラムネを製造・販売する企業が減少傾向にあるなか、木村飲料さんが成長し続けているのにはどのような理由があると思われますか?

木村さん

飲料市場の98%を大手飲料メーカーが占めるなか、当社は残り2%を確実に取るニッチ戦略を実践しています。大手にはない発想と商品展開で市場にアプローチをし、手堅く利益を上げているのが当社の特徴です。

その代表的な商品がユニークラムネやご当地サイダーなど変わり種商品です。社長のアイデアから生まれたカレーラムネは当時、社員全員が売れるわけがないと思っていたのですが、その斬新かつ突飛な発想が受け、多くのメディアに取り上げていただいたことからヒットしました。

以降、話題性を狙う意味も含め、さまざまな変わり種サイダーやご当地サイダーを展開しています。美味しくて必ず売れるものに特化して商品開発をする大手に対し、当社は面白いアイデアは商品化するといったチャレンジ精神とニッチな市場をターゲットにしていることが、企業成長につながっていると分析します。

編集部

高速道路のサービスエリアや、観光地の道の駅では必ずと言えるほど、木村飲料さんのご当地サイダーを見かけます。そこにはニッチ戦略に向けた御社の弛みない努力があるのですね。

コロナ禍を支えたOEM製品と輸出業

編集部

木村飲料さんのご当地サイダーは、観光施設や道の駅、サービスエリアなどで販売され「ご当地でしか味わえない」ことが最大の特徴と思われます。行動制限が余儀なくされたコロナ禍では多くの企業が苦戦を強いられましたが、木村飲料さんではどのような施策を取られたのでしょうか。

木村さん

コロナ禍によって観光客が激減したことに伴い、ご当地サイダーも一時は売り上げが減少しました。それをカバーしたのがOEM製品と輸出です。コロナ禍によって店頭で販売している飲料全般が品薄になったことや、巣篭もり需要が増えたことで発注が急激に増えました。このように、危機的状況にも強い事業展開ができるのが、当社の特徴であり、成長要因と思われます。

大手代理店とのタッグで各国の仕様に合わせたビン入りラムネを販売

編集部

輸出業が好調とのことですが、グローバル市場に乗り出したきっかけについてお聞かせください。

木村さん

海外展開は、社長や当時の営業本部長が海外市場を見据え、各国で開催された見本市などに出展したことがきっかけです。2006年ごろから各地で取り引きされるようになり、それが徐々に拡大、現在は当社の基幹事業の1つになるまでに成長しました。

とはいえ、海外の見本市に出展するには、渡航費用など経費がかかるので、売上が伴っていない当時は、銀行から計画を見直すように助言を受けることもあったようです。

編集部

先行投資のフェーズだった当時は、ご苦労されたこともあったと思われます。そこからどのようにして、輸出事業を軌道に乗せたのでしょうか。

木村さん

日本にグループ企業を持つ海外の代理店との出会いがターニングポイントになったと思われます。当時は自社ブランドのラムネの販売からスタートし、その後アメリカで販売する際は現地の法令に合わせてパッケージやオリジナルの内容液を作成しました。それをベースにヨーロッパに展開するなど、これらすべてをひとつの代理店にお任せしています。

編集部

信頼できる代理店との出会いにより、各国に合わせたラムネを販売できることが事業の成功につながったのですね。

ラムネ生産量の約9割を輸出。人気の理由はリサイクル性が高いガラスビン

編集部

海外向けにはどのような製品があり、売り上げの何割を占めているのでしょう。

木村さん

輸出においては現在、サイダー・ラムネは全体売上の約4割を海外に輸出しており、ラムネに至っては生産量の約9割を30ヵ国以上に輸出、北米や欧州をはじめとした多くの現地小売店や飲食店で人気を博しています。2021年には「令和3年度 輸出に取り組む優良事業者表彰」において農林水産省の輸出・国際局長賞を受賞しました。

編集部

木村飲料さんの商品が海外で需要が高まっているのはどのような理由があると思われますか?

木村さん

1つは、当社のラムネやサイダーが特別な日にふさわしい、高級ブランドとして認知されていることです。特にアジア圏では「日本の良いもの」として扱われており、富裕層に人気です。また、環境意識の高い欧米諸国からは、当社の製品がリサイクル性の高いガラスビンを使用していることも高く評価いただいております。

ラムネはもともとイギリスが発祥と言われていますが日本で独自に発展し、今では日本の伝統的な飲み物という位置付けにあります。ガラスビンへの注目、特徴的な容器形状、「Made in Japan」のブランド認知が海外におけるラムネ需要の高まりにつながっていると分析します。

全国の名産品とのコラボ商品とグローバル市場の拡充が目標

編集部

自社商品・OEM、ラムネを中心とした炭酸飲料の海外輸出と多くの商品の製造を手掛けている木村飲料さんの、今後の展望についてお聞かせください。

木村さん

令和の時代のメーカーとして進化していきたいと考える当社は、商品の開発力と発信力を武器に、全国の名産品を使ったオリジナル炭酸飲料の展開を目指しています。輸出においてはまだアプローチをしていない国がたくさんあるので、さらに営業力を強化し、より広くグローバル市場を取っていく方針です。

編集部

コロナ禍を乗り越え、さらなる進化を遂げている木村飲料さんの今後の成長がとても楽しみです。

パワフルな経営陣の発想と社員のチャレンジ精神が根付く木村飲料

木村飲料株式会社社員の仕事風景

編集部

ユニークラムネやご当地サイダーなど、独創的な商品が誕生した背景には、木村飲料さんのどのような社風、カルチャーがあるのでしょう。

木村さん

当社の社風を一言で表すのは難しいのですが、基本的に道から外れてなければ、やってみたいことに誰でも挑戦することができます。

ユニークラムネはもともと、社長による奇抜なアイデアを社員が商品化したことが始まりです。その流れを受け、社員からの提案で生まれたのが「うなぎコーラ」です。当時の営業担当とデザイナーがプレゼンをして商品化されたこの事例からもわかるように、誰でも自分のアイデアを商品化するチャンスがあります。

生産効率を上げ、残業時間削減に取り組む

木村飲料株式会社の浜工場外観
▲木村飲料は、吉田工場と浜工場で複数の飲料生産ラインを稼働させている

編集部

次に、木村飲料さんの働き方や、ワークライフバランスへの取り組みについて伺います。社員の働きやすさを考慮した制度などがあればお聞かせください。

木村さん

現在当社では労働環境の改善に取り組んでいます。まだ発展途上ではありますが、第一段階として2024年より年間休日を10日ほど増やしました。2~3年以内には、さらに10日増やすことを目標にしています。加えて、業務効率化と社員個々人の能力を十分に発揮できる環境づくりを目的に、全社員対象に月に1回、ノー残業デーを導入しています。

原則、第1水曜日を実施日としていますが、特に製造現場では製造計画上やむを得ず実施できないこともあるため、別日に振替で実施してもらうなど柔軟に対応しています。社員によっては残業時間を減らしたくないという人もいるため、その点においては企業としての取り組みが必要です。

現状、残業をする際は事前申請をし、管理側が見えるようなかたちを取っていますが、生産効率を上げれば、残業せずとも業務時間内で利益を出すことができ、それを給与に反映することができます。このようなプラスのサイクルを作ることに現在、注力しています。

編集部

出産や育児などライフステージの変化によって働き方も変わることがあると思われますが、そのような場合、どのような制度を受けることができますか?

木村さん

当社は女性社員だけでなく、男性社員の育児休暇取得実績があります。取得回数に制限は設けておらず、今年、2回目の取得を予定している男性社員がいます。また、産休・育休後の職場復帰率は100%を維持しています。

増員と適性に応じた人事異動。目指すは“脱・属人化”

木村飲料株式会社のラムネ製造ラインの工場内の様子

編集部

生産効率の向上のため、具体的にどのような取り組みをされているのでしょうか。

木村さん

昨年度から“脱・属人化”に取り組んでいます。当社のような中小企業の場合、1人が休むだけで業務が滞ることがあるので、定期的な持ち場のローテーション実施やマニュアルの整理を行っています。これにより、100%でなくても、その業務をある程度分かっている従業員を増やすことで、急遽穴が空いても回せる、また休む方も安心して休める環境づくりを目指しています。

このような状況から増員に向け、採用を強化している当社ですが、単に社員数を増やすだけではなく、世代交代のタイミングに合わせて若手を積極的に採用したいという狙いがあります。

編集部

木村飲料さんの平均勤続年数は10. 2年と伺っております。この数字からも、御社の働きやすい環境が伺えます。

木村さん

従業員の中には社歴30年以上という人もいます。自分らしく、のびのびと働ける環境だからこそ、長く働いてくれる人が多いのかなと思います。特に製造部門は職人気質の者が多く、黙々と仕事に打ち込むことが好きな方は向いている職種だと思われます。

もともと部署の異動はそれほど多くはなかったのですが、昨今は若い世代にさまざま経験をさせたい思いと、“脱・属人化の狙いから、適性を見て配置転換や人事異動をしています。

編集部

属人化を防ぐことで、働く社員はプレッシャーを感じることなく、休暇を取ることができ、結果として働きやすさにつながると感じました。

消費者の顔が見え、声がダイレクトに感じられることが醍醐味

編集部

木村飲料さんでは現在、採用を強化されているとのことですが、御社にジョインすることでどのような経験を得ることができると思われますか?

木村さん

当社の最終的な目標としては、社員みんなが自社の商品を自慢したくなることです。当社は商品の露出が多く、メーカーですが比較的消費者との距離が近いので、お土産物屋さんやサービスエリアなどで自分たちが作った商品を手に取っているお客様の姿を実際に見ることができ、ものづくりの醍醐味、働く楽しさにつながっていると感じます。

また、メディアに登場する機会も多いため、芸能人が自社のサイダーを飲んでいるところや、有名なYouTuberの商品レビュー動画を見れることもモチベーションの1つです。「お店に行ったらあの商品があったよ」や「この前テレビで見たよ」などと、社員も知人から言われることが多いらしく、刺激になっているようです。

ユニークな商品でムーブメントを起こしたい方を歓迎

編集部

ご当地の魅力をつめ込んだユニークな炭酸飲料を世に送り出している木村飲料さんのチャレンジ精神や、労働改善への取り組みに興味を持った読者は多いと思われます。最後に、転職を検討している読者に向け、メッセージをお願いします。

木村さん

ものづくりが好きな方や興味のある方、大歓迎です。当社は変わった商品が多いからこそ認知してくれている人が多く、自慢になります。自慢できる商品を作っているという自負が、仕事への誇りにつながると思います。

現社長からゆくゆくは私へ、世代交代のフェーズにある当社は今、新風を求めています。そして全てのステークホルダーの期待に答えられる人材の登用と育成をしていきたいと考えています。ご当地炭酸飲料やユニークな商品でムーブメントを起こしたい方にぜひ、入社いただけたら幸いです。

編集部

自分の仕事に誇りを持てることは、働きやすさ、生きがいにもつながることを、今回の取材を通して感じることができました。木村飲料さんのチャレンジ精神と、労働環境改善への取り組みは、自分らしい働き方を見つけるきっかけにもなることでしょう。

本日はありがとうございました。

■取材協力
木村飲料株式会社:https://www.kimura-drink.net/
採用ページ:https://www.kimura-drink.net/recruit/