ロボット重機で不可能を可能に。株式会社人機一体の挑戦とそれを支えるカルチャー

地方に拠点を構え、業界をリードする先進的な事業に取り組む企業を紹介するこの企画。今回は滋賀県と福島県に拠点を置き、人型重機をはじめとするロボット重機の社会実装を目指すロボティクススタートアップ、株式会社人機一体にインタビューを実施しました。

株式会社人機一体とは

人機一体の人型重機

株式会社人機一体は立命館大学発のロボティクススタートアップです。先端ロボット工学技術をコアに、「人型重機」の開発・社会実装を進めています。

人機一体が重点を置いているのは、自動化が進んでいない土木建設、保守点検作業などの重作業におけるロボットの活用。重作業の「機械化」を進め、危険や苦痛の伴う作業から人間を解放することを目指しています。

会社名 株式会社人機一体
住所 本社:滋賀県草津市青地町648番地1秘密基地人機一体
支社:福島県南相馬市原町区萱浜字巣掛場45番地245南相馬市産業創造センター人機一体福島基地
事業内容 先端ロボット工学技術に基づく新規事業開発支援のための知的財産活用サービス
設立 創立:2007年10月1日
創業:2015年10月1日(現商号への変更日)
公式ページ https://www.jinki.jp/

直近では西日本旅客鉄道株式会社(JR西日本)、日本信号株式会社と合同で行う高所重作業対応汎用人型重機「空間重作業人機」開発プロジェクトが多くのメディアに取り上げられ話題を呼びました。ロボットやAI技術への世間的な関心も高まる中で、今後も前例のない挑戦を進める株式会社人機一体への注目度・期待値は増していくことが予想されます。

今回はそんな株式会社人機一体の取り組みの特徴や強み、今後の可能性などについて、広報・採用担当の梅田幹太さんにお話を伺いました。また、滋賀県と福島県に拠点を置くに至った背景や、地方企業だからこそのメリット、さらに社内カルチャーや採用にあたって求める人物像にも迫っています。

本日お話を伺った方
人機一体の広報・採用担当梅田幹太様

株式会社人機一体
広報 採用担当

梅田 幹太さん

事業の目的は、ロボットによる「3K労働」からの解放

人機一体の掲げる企業理念
▲人機一体さんの掲げる企業理念

編集部

まず、人機一体さんではどのような事業を展開されているのか、人機一体さんが掲げられている企業理念も含めご説明いただけますでしょうか。

梅田さん

人機一体は「あまねく世界からフィジカルな苦役を無用とする」を企業理念に掲げています。これは簡単に言うと、肉体的・精神的な苦痛を伴う重労働をなくしたい、という意味です。

肉体的・精神的な苦痛を伴う重労働というのは、世の中に必要不可欠な仕事でありながら「3K労働」と呼ばれ忌避されてしまいがちな「きつい・汚い・危険」な労働のことです。例えばインフラメンテナンス作業、土木建築、災害対応などが代表されます。我々が行っているのは、ロボットを使ってこのような重労働を解決するというご提案です。

編集部

工場内作業ではファクトリー・オートメーション(※)が進んでいるイメージがありますが、今言われたような屋外での重労働の自動化が進んでいないのはなぜなのでしょうか。
※ファクトリーオートメーション:工場内での生産工程を産業用ロボットなどにより自動化すること

梅田さん

工場内で使用される産業用ロボットには「定型業務を繰り返し行うことに強い」という特徴があります。しかし土木建築等の労働は、人間による臨機応変な判断が必要な「不定型作業」が多く、従来のロボットによる完全な自動化は難しいと考えています。

人機一体ではそれらの労働に関して「自動化」ではなく、ロボットを使った「機械化」を行うことをご提案しています。「自動化」は人を介さずロボットのみで作業をすることを指しますが、「機械化」は人間がロボットを操縦することを指します。

人間がロボットを操縦することでロボットが大きな力を発揮し、さらに力を緻密に操ることで自由自在に作業ができる。それによって「あまねく世界からフィジカルな苦役を無用とする」のが我々の事業の目指すところです。

他に類を見ない「力制御」の技術で大きなロボットの操縦が可能に

人機一体のロボット操作時の様子
▲操縦席に座って直感的に動かせる人機一体のロボット

編集部

人機一体さんのロボットにはどのような特徴がありますか?

梅田さん

産業用ロボットが定型作業に強いのは、「位置制御」を得意としているからです。一方で、臨機応変な対応ができるロボットを作ろうと思うと、位置制御だけでは限界が出てきます。

そこで人機一体では力を自由自在に制御できる「力制御」の技術により、作業の機械化を可能にしています。この技術があることで、操縦席に座って操縦桿で直感的にロボットを動かす、要するに、機械を通して物理的につながったような形で操作をすることが実現可能となるのです。

大きな重機レベルのロボットを安定的かつ緻密に操ることができるのは、人機一体独自の技術です。この力制御の技術を駆使できる企業様はなかなかいらっしゃらないのではないかと考えています。

編集部

確かに、手術用のロボットなどは聞いたことがありますが、重機でそのような作業が可能というのは私も初めて知りました。大きなパワーを発揮するロボットの力制御ができるのは、他にない人機一体さん独自の技術なんですね。

「知的財産活用サービス」というビジネスモデルが成長を加速

人機一体の会社外壁にあるパートナー企業のロゴパネル
▲人機一体さんの秘密基地妻壁に掲げられたパートナーパネル

編集部

人機一体さんは多くのメディアに取り上げられ、複数の事業会社から出資を受けるなど、世間的な注目度を高めていらっしゃいます。これほどの注目を集めるまでに成長された背景には何があるとお考えですか?

梅田さん

人機一体がロボットメーカーではなく、知的財産活用サービスを提供するビジネスモデルを取っていることは大きいと思います。というのも、我々はロボットを製造して一体1億円2億円で販売しているわけではなく、ロボットの研究・開発により技術を生み出し、その知的財産を体系化してメーカー企業様に製品化してもらうというビジネスモデルになっています。

すでに製品化のノウハウをお持ちの大手メーカー企業様とタッグを組むことで、我々は得意とする研究・開発に注力できます。また、大手企業様は既にお客様の窓口を持っているため、ロボットの社会実装に向けたスピード感を早められる点もポイントです。

広報の面でもメリットがあります。人機一体ではあえて営業部隊を置かず、ロボットを利用した広報活動をしているのですが、大手企業様からも発信いただくことでかなり話題を呼ぶことができました。その結果、多方面の企業様や金融機関や行政関係の方に注目していただけるようになったと考えています。

編集部

なるほど。研究・開発に注力することで独自技術を生み出しつつ、大手企業様とタッグを組むことで製品化のスピード、広報効果の向上にもつなげられているんですね。

“高度なロボット工学技術”の提供が広げる可能性

人機一体のPoC試作機「零式人機ver.2.0」
▲JR西日本、日本信号と共同で進める開発プロジェクトの試作機「零式人機ver.2.0」

編集部

今後もAIの活用などが進み、ロボット業界自体の成長が見込まれると思います。その中で人機一体さんの強みはどこにあると思いますか?

梅田さん

人手不足はどの業界でも大きなテーマとして取り上げられているため、人の代替となるロボットの必要性は高まってくると考えます。その中でも、自動化困難な3K労働を機械化できる独自技術を提供できるのは、他にはない人機一体ならではの強みです。

また、人機一体では出来上がったロボットを売るのではなく、そもそもの設計から提案できます。企業様がDX化を進めるにあたって、先進ロボット工学技術を活用して企業様に合った形でのソリューションを提供できるというところに、人機一体の強みがあると考えます。

地方に事業所を構えた背景にある「縁」「被災地への思い」

人機一体の代表取締役社長・金岡博士
▲震災を機に事業を立ち上げたという代表取締役の金岡博士

編集部

人機一体さんは滋賀県に本社を、福島県に支社を置いていらっしゃいますが、その2拠点に事業所を構えていらっしゃる背景を教えていただけますか?

梅田さん

元々弊社の創業者の金岡博士が立命館大学のびわこ・くさつキャンパスにあるロボティクス学科で講師として勤めており、そこから人機一体がスタートしたという経緯があります。

なおかつ、今この場所に本社を置いているのは、地主様とのご縁があったからです。この場所の地主さんが「草津市で最先端の事業に取り組む企業を応援したい、草津市を盛り上げたい」という思いを持っていらっしゃったことから、そのご縁でこの場所をお借りさせていただいています。そういった人とのつながりは、人機一体として大切にしているところです。

編集部

福島県に支社を構えられているのは、代表の金岡博士の震災に対する思いがあったからとお聞きしました。

梅田さん

東日本大震災の災害対応でロボットが活躍できなかったことに、金岡博士がロボットの研究者としてロボット工学技術の無力さと問題意識を強く感じたことがきっかけとなって人機一体の事業は始まりました。だからこそ、被災地である福島県に対する思いは強く持っています。

加えて、国でもロボットやドローン、宇宙分野などの最先端技術を扱う産業によって南相馬市の復興に寄与していこうという動き(※)がありました。我々の思いと国の流れが重なり、福島県に拠点を構えることになったのです。
(※)福島イノベーション・コースト構想のこと。詳細は公式サイト参照。

福島県の方は現在南相馬市産業創造センター(MIC)の一角をお借りしている状態ですが、ゆくゆくは開発拠点として伸ばしていきたいと考えています。

移住者は地域手当でサポート。地域の人の温かさも魅力

編集部

人機一体さんの社員様の中には、転職を機に移住をされた方も多いのでしょうか。

梅田さん

ロボットをつくるという仕事上どうしてもフルリモートワークが難しい環境があるため、私を含め移住して入社したメンバーが多いですね。入社いただくために居住地を変えていただく必要が出てくるため、毎月地域手当の支給という形でサポートしています。

編集部

梅田さんは普段どこで働いていらっしゃいますか?

梅田さん

私は滋賀県に生活拠点があるため、普段は滋賀県の本社で働いています。ただし福島県に出張に行く場合は2週間から3週間ほど滞在しています。

南相馬市は震災により大きな被害を受けた地域ですが、生活環境はもう完全に元に戻っているため生活に困ることはありません。また南相馬市では、「ロボットのまち」と呼ばれるように、先端技術の産業で地域を盛り上げていこうという気運をとても感じます。メンバーは地域の人に「人機一体の人だよね」と声をかけてもらうこともあるようで、温かい環境があるなと感じます。

編集部

地域で受け入れてくれるような空気があり、さらに自分の従事する産業が地域を盛り上げることにつながることを実感しながら働けるのは、嬉しいポイントだと思います。

法定有給とは別の「特別休暇」あり。忙しくても切り替えながら働ける

編集部

人機一体さんではワークライフバランスの取り組みにも力を入れていらっしゃると伺いました。具体的にどのような制度があるのでしょうか。

梅田さん

「特別休暇」として、法定有給とは別に毎月1日、年間で12日の休暇を付与する制度があります。弊社はベンチャー企業ということもあり繁忙期は忙しいのですが、休暇を活用して仕事とプライベートの切り替えができるようにしています。

また、残業時間もなるべく減らすようにしています。「何時以降はオフィスを閉めてしまう」などいろいろな工夫をしています。

メンバーの希望に沿ったPCスペック、モニター環境で働きやすさを担保

人機一体の職場環境
▲4つのモニターに囲まれて作業する人も。メンバーの希望通りの環境を整備

編集部

その他に、人機一体さんで働きやすい環境づくりに向けて取り組んでいることはありますか?

梅田さん

人機一体では、PCスペックやモニター環境を可能な限りメンバーの希望通り揃えています。OSもWindowsかMacを選ぶことができますし、合計4枚のモニターに囲まれて仕事をしているメンバーもいれば、かなり長いワイドモニターを使っているメンバーもいます。

編集部

会社として一律で用意するのではなく、個人個人の希望に沿った環境を用意するのはかなり珍しいですよね。どのような意図があってそうされているのですか?

梅田さん

PCスペックやモニター環境など、自分の能力以外の部分で仕事が進まない要因を除外するのが目的です。エンジニアはもちろんですが、バックオフィスのメンバーも含めて、自分が働きやすいデスク環境、PC環境で存分に能力を発揮してほしいと考えています。

編集部

会社としてメンバーの生産性を最大化するためにいろいろな工夫をされているということが良く分かりました。

良好なコミュニケーションが魅力。一方でメリハリのある職場環境も重視

編集部

人機一体さんの社内カルチャーについて伺います。ロボット好きな方が多いのかな、というイメージを持っていますが、人機一体さんにはどのような雰囲気のメンバーが多いのでしょうか。

梅田さん

ロボット好きかどうかで言うと半々くらいです(笑)。とはいえ自分たちのプロダクトなので、皆ロボットに愛着を持って働いてると思います。

会社の雰囲気で言うと、地方ということもあり生活圏が割と近いので、職場という垣根を越えて一体感を持って暮らしているような感覚があります。都心部と比べると飲食店も少ないので、会社の敷地を使ってバーベキューをやったり、滋賀県と福島県をつないで懇親会をやったりすることもありますね。

業務においてもエンジニア同士のコミュニケーション、部署を超えた連携を積極的に取っていく必要があるため、コミュニケーションの垣根は低いと思います。

一方で、上場を目指して会社としての体制を整備しており、その中で先ほどもお話したような残業削減の取り組み、情報セキュリティ体制の強化などを進めています。ある種“ウェット”な空気感もありつつ、メリハリをつけて働けるような環境を整えています。

メンバーに共通する特徴は「自己研鑽」。会社としてのサポート体制もあり

人機一体の人型重機

編集部

その他、人機一体さんのメンバーの皆様に共通する特徴などはありますか?

梅田さん

自己研鑽をするメンバーが多いのが人機一体の特徴です。私も土日を使って採用や広報、デザインの勉強を行っていますし、今後は資格取得に向けて通学も予定しています。エンジニアも通信制の大学に通ったり、個人的に3Dプリンタで造形をしているメンバーもいます。

やはり大学の研究室発ベンチャーなので、アカデミックな雰囲気がありますし、自己研鑽しやすい環境はあると思います。

編集部

個人としてのスキルアップは、会社としても推奨されているのでしょうか?

梅田さん

そうですね。業務のために必要な知識を取得するためであれば、1冊何万円もするような学術書などを会社で購入することもあります。また学会に積極的に出てほしいということで、会社として参加を推奨しています。

もちろん本人に選択の自由はありますが、メンバーの自発的な学習の意欲も高いですし、会社としても自己研鑽に対して積極的にサポートする環境がありますね。

活躍できるのは「何でもやってみる」「自分を磨き続けられる」人

人機一体のロボット重機

編集部

最後に採用に関してお伺いします。人機一体さんで活躍できるのはどのような人材だとお考えでしょうか。

梅田さん

良い意味で小さい会社で、セクショナリズムがないため、役割を限定せずに何でもやってみたい人はフィットすると思います。

自分のキャリアを見据えたときに、もっと横展開でバリエーションを増やしてキャリアアップしていきたい、自己研鑽していきたい人には非常に良い環境があるのではないでしょうか。

ロボット自体が新しい産業ですし、その中でも我々が取り組むロボットは今までの世の中にないロボットです。前例がない取り組みを行う中で「何でもやってみる」という思考が大切になります。

また人機一体は研究・開発を行う機関です。慎重になりすぎて動かないよりは、「とりあえずやってみて、失敗したらフィードバックしてブラッシュアップして、また新しいものに変えていく」という思考を持っている方がフィットすると考えます。

そして先ほどもお話したように、自己研鑽を続けるメンバーが多いのが人機一体の特徴です。幅広い業務を担当し、新しい分野に挑戦する中で、自分自身を磨き続けられる人が活躍できるのではないかと思います。

編集部

人機一体さんには、自分自身の幅を広げながら活躍できる土壌があると感じました。地方企業ならではの、人と人とのつながり、地域の活性化への貢献を感じられる環境があるのも魅力的だと思います。興味を持った方はぜひお問い合わせしてみてはいかがでしょうか。

本日は貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました!

■取材協力
株式会社人機一体:https://www.jinki.jp/
採用ページ:https://www.jinki.jp/recruitment/information