日本の職人技をインドに伝えるアイティップス株式会社のグローバルな成長戦略

ユニークなアイデアで社会課題の解決に取り組む注目企業をインタビューする本企画。今回は、日本の職人技術をインドの人に伝えるための訓練校を運営する「アイティップス株式会社」にお話を伺いました。

アイティップス株式会社とは

アイティップス株式会社は、日本の職人が持つ技能をインドの人に広める活動などを行う、名古屋発のベンチャー企業です。

建設をはじめとする日本人職人を講師としてインドに派遣し、現地の人に対して技能研修を行う訓練校を運営するほか、技能を習得したインド人材をインドや日本の事業者に紹介するマッチングプラットフォームを手がけています。

会社名アイティップス株式会社
住所愛知県名古屋市中村区平池町4−60−12 グローバルゲート11階
事業内容・インドにおける建設技能訓練校の運営事業
・日印の人材還流プラットフォーム事業
・インドにおける建設職人派遣事業
・日本へのインド人材紹介事業
設立2022年1月
公式ページhttps://www.itips.blue/

インドのものづくり人材を育てることで、日本の人手不足の解消につなげるとともに、日本の職人のグローバルな活躍にも貢献しようとするアイデアが投資家などに注目され、 アイティップス株式会社はこれまでに約1億円の資金調達を実現しています。

今回は、代表取締役のクマール・ラトネッシュさんに、積極的な事業展開やインターンの受け入れについて、お話を伺いました。

本日お話を伺った方
アイティップス株式会社の代表取締役を務めるクマール・ラトネッシュさん

アイティップス株式会社
代表取締役

クマール・ラトネッシュさん

日本の職人技術とインドの人材をかけ合わせて建設の課題を解決

アイティップス株式会社の公式サイトに掲載されたミッション
▲アイティップス株式会社は「懸命に働くすべての人を応援し、努力と幸福がより身近になる世界をつくる」というミッションを掲げている(公式サイトから引用)

編集部

まずはじめに、アイティップスさんの事業内容について教えてください。

クマールさん

私たちは、日本とインドがそれぞれ抱える建設業界の問題に対して、両国の強みを活かしたソリューションを提供する会社です。

まず、それぞれの国が直面する問題からお話しさせてください。日本では、高齢化や人口減少などを背景に労働力不足が深刻になっており、建設業界は2030年までに約23万人の職人が足りなくなると言われています。

一方、インドには十分な建設スキルを持つ職人が少なく、工事の遅れや漏水などの問題が頻発しており、技術力不足による経済損失は日本円にして年間8兆円にのぼると言われています。

また、インドの人口は14億人を超え、2023年中には中国を抜いて世界最多になるとされていますが、人口の増加に雇用が追いつかず、15〜24歳の失業率は24%という高水準にあります。

編集部

日本は「人手不足」、インドは「技術不足」と「若年層の失業率」の問題を抱えているということですね。

クマールさん

はい。私たちはこうした問題を解決するために、建設をはじめとする日本の高い職人技術をインドの人たちに習得してもらう学校の運営と、技術を身につけたインドの職人をインド国内の建設現場とマッチングしたり、特定技能外国人として日本に紹介したりする事業を行っています。

インドのものづくり人材を育て、日本で働いてもらうことで人手不足の解消につながりますし、技術力が上がればインドのインフラ向上にも貢献できます。また、海外の人に技術を伝える活動を通じて日本の職人に光が当たり、グローバルに活躍できるチャンスにもつながります。

編集部

それぞれの国にとってプラスになる、とても意義のある活動をされていると感じます。クマールさんは、どのような思いからアイティップスさんを設立したのでしょうか?

クマールさん

生い立ちや出自に関係なく、一生懸命頑張る人が成功するような仕組みを作りたいと思い、会社を立ち上げました。この思いは弊社のミッション「懸命に働くすべての人を応援し、努力と幸福がより身近になる世界をつくる」にも込められています。

編集部

日本とインドの社会問題の解決という大きなテーマに挑戦する背景には、働く人の幸せを真剣に考えるアイティップスさんのミッションがあるのですね。

職人技を教える訓練校を開校。アイティップスの成長戦略とは

アイティップス株式会社がインドで運営する訓練校で生徒が図面作成の実習をするようす
▲アイティップス株式会社は2023年7月にインドに技術訓練校を開校した。(プレスリリースから引用)

編集部

2022年1月に創業したアイティップスさんですが、2023年に入って様々な事業が形になってきたと伺いました。

クマールさん

はい。2023年7月に、職人技術の習得を目的とした技能訓練校をインドのベンガルール市に開校しました。この事業は、日本人の職人を先生としてインドに派遣し、現地で技能訓練を行うもので、第1期は板金工事の施工管理技士の育成がテーマです。

編集部

現在、どのくらいの人が学んでいるのですか?

クマールさん

第1期は13人が参加しています。第2期は建築板金技術の訓練を行う予定で、20人の参加を想定しています。

編集部

今後の成長戦略については、どのようなことをお考えですか?

クマールさん

訓練校の数を、今後増やしていきたいと考えています。私たちがすべての訓練校を運営するというより、技術のレベルを証明する資格制度の新設や、それに基づく教材などのコンテンツ開発を行い、現地の訓練校に提供する事業モデルを考えています。

編集部

「職人技術教育といったら、アイティップス」というようなポジションの確立を目指していらっしゃるんですね。日本の職人がインドで教えるという点にも、こだわりを感じました。

クマールさん

はい、今期は北海道と岐阜の職人さんに、講師としてインドの訓練校に来ていただきます。日本人の職人を起用する狙いは2つあります。

訓練校の事業はインドの人に日本のものづくりを習得してもらうことが第一の目的ですが、実は「日本の職人文化を残す」という狙いもあります。職人が持つ仕事へのプライドや、約束や時間を守って仕事をする姿勢など、日本の「プロ意識」というものを世界の人に広めたいと思っています。

もうひとつの狙いは、日本人職人の海外での活躍です。訓練校での活動などを通じて日本の技術者の評判が世界に広まれば、海外の国に招かれてグローバルに活躍する日本の職人が出てくるかもしれません。日本のベテラン職人が飛行機のビジネスクラスで世界中を飛び回るような日が来れば、職人を目指す日本の若者も増えるのではないでしょうか。

編集部

インドに技術を伝える事業が、日本の職人の世界的な活躍につながるかもしれないというのは、考えただけでワクワクします。

技術を持つインド人に日本の仕事を紹介する事業も本格化

アイティップス株式会社の「Oyakata」のサービスイメージ図
▲アイティップス株式会社は、インドの職人に日本での仕事を紹介する新サービス「Oyakata」を開発している。(公式サイトから引用)

編集部

アイティップスさんのもうひとつの事業、技術を身につけたインドの職人を日本に紹介するサービスについては、現在どのような段階ですか?

クマールさん

2023年8月に有料職業紹介事業許可証を取得し、インド人材を日本に紹介する環境が整いました。また、日印の建設人材をつなぐマッチングプラットフォーム「Oyakata」の開発も順調に進み、2024年から本格的にサービスを展開する予定です。

編集部

「Oyakata」にはどのような機能があるのでしょうか?

クマールさん

アプリ上で、職人と仕事のマッチングができるほか、職人の勤怠管理や、職人の仕事ぶりやスキルを評価する機能もあります。

編集部

職人の評価というのは、ユニークな機能ですね。

クマールさん

勤勉な人がちゃんと評価されて、インドや日本の建設業界でキャリアアップできるような仕組みにしたかったので、評価機能をつけました。

インドの建設業界では、遅刻や無断欠勤をする職人は珍しくありません。しかし、彼らが日本で同じことをやると致命的です。二度と現場に呼ばれません。勤怠管理や評価機能を加えたのには、彼らに日本の職人のような高い職業倫理感を習得し、キャリアアップしていただきたいという想いがあります。

一方で、こうした機能を活用し、日本に来たインド人職人を違法な就業環境から守る狙いもあります。私たちのプラットフォームでは、職人と職場が信頼を築き、安心して働ける関係を作れるような仕組みを積極的に作っていきたいと思っています。

編集部

アイティップスさんの技能訓練校と人材マッチングサービスは、建設業界を変革する様々な可能性を秘めているのですね。

資金調達1億円を達成。クラウドファンディング活用も検討

編集部

アイティップスさんは、これまでに1億円の資金調達を行っているということで、周囲からの期待の声も大きいのではないでしょうか?

クマールさん

はい。大変ありがたいことに、弊社が取り組む社会問題や解決手法に共感し、応援してくださる方は非常に多いです。今はまだ期待値が先行していますが、インド人材を日本に紹介する事業が本格化すると実績の数値も出てきます。そうすれば、弊社の事業が持つビジネスインパクトや、ソーシャルインパクトを実感していただけると思います。

弊社としてはこの取り組みを、特に日本の建設業界や職人さんに支持していただけるものにしたいと願っています。私たちのプラットフォームのユーザーとなりうる方々から応援していただき、一緒に良いサービスを作っていきたいので、投資家からの資金調達だけではなく、株式投資型のクラウドファンディングなども検討したいと思っています。

編集部

資金調達に新しい方法を積極的に取り入れるところも、革新的な事業を行うアイティップスさんならではですね。

インドで働くチャンスも。アイティップスはインターンを積極募集

編集部

アイティップスさんでは、インターンの受け入れも行っていると伺いました。

クマールさん

はい。これまでに国内外の8名の学生に、オンラインでインターンとして活躍していただいています。

訓練校やマッチング事業を同時に立ち上げているため、想定外のことが毎日のように起きるのですが、皆さんコミュニケーションが上手なのでスムーズに業務を進めることができています。また、事業やミッションに対する共感もあるので、モチベーション高く働いてくれています。

編集部

今後もインターンの受け入れは続ける予定ですか?

クマールさん

はい。訓練校が開校したので、今後はオンラインだけでなく海外で中長期のインターンも募集したいです。インドの訓練校では専門的な技術だけでなく日本語や日本のカルチャーも教えたいので、インターンが活躍できる機会もたくさんあると思っています。

また、訓練校で使う教材開発に携わってもらったり、SNSなどを活用して生徒の募集をしてもらったりすることも考えられます。

編集部

どのような方にインターンとして参加してほしいですか?

クマールさん

私たちの事業や組織はラグビーに通じるものがあると思っています。「One for all All for one」の考えのもとチームで頑張れることを重視しますし、危険が伴うからこそ常に安全を意識する点も、ものづくりの現場とラグビーは似ていると感じます。ですので、ラグビー精神を持つ学生さんと、ぜひお仕事したいですね。

編集部

スクラムを組んで働けるような人が、アイティップスさんに合っているのですね。

社員・副業どんな形でもOK!働き方より事業への共感を重視

アイティップス株式会社の代表取締役を務めるクマール・ラトネッシュさん
▲アイティップス株式会社を創業したクマールさん(プレスリリースから引用)

編集部

最後に、アイティップスさんで働くことに興味を持つ読者の方に、メッセージをお願いします。

クマールさん

私たちの合言葉は「すべてのがんばる人に、幸せを」です。この言葉の根底には、「世の中は不平等、それが当たり前。我々が生まれた瞬間に与えられる環境には、愛情の差があり、人権の差があり、機会の差があり、富の差があり、そして寿命の差がある。与えられた環境に関わらず、自らが望む未来を切り開くには、自分自身の努力に勝るものはない」という私の信念があります。

私たちは、与えられた環境の中で、日々を一生懸命に生きている人たちが、幸せをつかむことができるような仕組みを作りたいと思っています。現状を変えたい、一歩前に踏み出したいと思う人を応援したい方、組織作りや学校作り、途上国開発に興味がある方に、ぜひ仲間になってほしいと思います。

今は1社だけで働く時代ではないので、正社員だけでなく、副業やインターンなど、さまざまな形の関わり方があっていいと思います。雇用形態よりも、私たちのミッションや事業に共感し、楽しみながらハードワークするチームを大切にしたいと思っています。

編集部

日本の技術力とインドの人材に着目し、建設業界を取り巻く大きな課題に挑むアイティップスさん。社員やインターンとして働く人は、グローバルな舞台で大きな目標に向かって活躍できそうです。

本日は、ありがとうございました。

■取材協力
アイティップス株式会社:https://www.itips.blue/
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