さまざまな企業の新しい働き方をお伝えしていく企画。今回は全国的にも珍しい「アバター勤務」を取り入れている、クラスター株式会社さんを取材させていただきました。
クラスター株式会社とは
クラスター株式会社は、日本最大級のメタバースプラットフォーム「cluster」の運営を主軸とするIT企業です。
バーチャルでのイベントを開催するBtoB向けのエンタープライズ事業と、仮想空間での生活を目指すべくインフラを整えるBtoC向けのプラットフォーム事業の2つを主としています。バーチャルイベントの開催数は世界でもナンバーワンを誇り、前例のない業態で快進撃を続けています。
会社名 | クラスター株式会社 |
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住所 | 東京都品川区西五反田8-9-5 FORECAST五反田WEST 10F |
事業内容 | メタバースプラットフォーム「cluster」の開発・運営 |
設立 | 2015年7月 |
公式ページ | https://corp.cluster.mu/ |
クラスター株式会社では従業員全員がリモートワークを取り入れており、さらにWEB会議などでは顔を出さずにアバターで出席する、アバター勤務が浸透しているとのことです。
今回は、全国的にも珍しいバーチャル空間を最大に活用したアバター勤務について、エンジニアのねおりんさん・okanさん、広報のMIRINさんにお話を伺いました。
ねおりんさん:Unityエンジニア
okanさん:QAエンジニア
MIRINさん:広報
※UnityエンジニアはゲームエンジンのUnityを使い開発を担当するエンジニア。QAエンジニアは主に品質保証や品質管理を担当し開発メンバー間のコミュニケーションの橋渡しも行う役割。
バーチャル空間で生活・仕事ができる時代を創造していく企業
編集部
クラスターさんのミッションを拝見したところ、”人類の創造力を加速する”というビジョンを持っていて、将来的に10億人規模の利用者を目指しているそうですね。
ひとことで「仮想空間で生活する」といっても、仕事や遊びなどいろいろなシチュエーションが考えられると思うのですが、具体的にはどのようなイメージを持って、clusterの開発を進めているのでしょうか?
ねおりんさん(Unityエンジニア)
やはり最初は、エンターテイメントの方面が先行するのではないかと思います。ただ、メタバースは遊びだけではなく仕事でも機能する世界なんですよ。実際に、クラスターではバーチャル空間で接客をする「ロビースタッフ」という職種もあります。これはメタバース空間内で雇用が生まれた良い例で、同様の雇用形態はどんどん増えていくと予想しています。
個人的には「わざわざ役所に出向いて手続きしないといけない」というような、実生活において面倒に感じることをバーチャル空間で実現できるようになるといいなと思っています。移動にかかる時間を減らすことができれば、その時間をクリエイティブな作業に割くことができる。それがメタバースのメリットではないでしょうか。
編集部
たしかに、よく考えると「その場所に行かなくてもできること」はたくさんあるように思います。バーチャル空間でそうした手続きやイベントを実行できるようになると、すごく便利ですね。
▼「cluster」を活用したバーチャル空間での飲み会の様子
アバターやハンドルネームで仕事をするカルチャー
編集部
クラスターさんは実際にメタバース内でお仕事をされていて、本日の取材もアバターとハンドルネームで参加してくださっていますね。普段の業務でもみなさんはハンドルネームやアバターの姿で仕事を進めているのでしょうか?
ねおりんさん(Unityエンジニア)
そうですね。私は仕事でもハンドルネームを名乗っていて、基本的にはアバターの姿でWEB会議などに出ています。全社的にみると、本名の人とハンドルネームの人は半々くらいでしょうか。
okanさん(QAエンジニア)
私も完全にハンドルネームですね。「”okanさん”ではなく”okan”と呼んでください」ということをみんなに1ヶ月くらいかけて伝えて、定着させました。
編集部
ハンドルネームでの勤務を導入していったのは、どのような理由や背景があったんですか?
MIRINさん(広報)
「メタバースやインターネットのカルチャーを社員間でも当たり前にしていきたい」という代表(代表取締役CEOの加藤直人さん)の意図に沿ったかたちですね。実際にサービスを利用しているユーザーがハンドルネームやアバターを使っているので、その気持ちを理解していくという意味合いもあります。
ねおりんさん(Unityエンジニア)
私はもともとTwitterで転職先を探していて、それがきっかけでクラスターに入社したので、最初からハンドルネームで呼ばれていたんです。だから、特にきっかけがあるというより自然発生的なもので、インターネット色の強い会社なんだなと感じていましたね。むしろ、本名で呼ばれても誰が誰なのかわからなくて反応できないくらいです。
okanさん(QAエンジニア)
自己紹介するときに一応本名も名乗るんですけど、結構恐縮されてしまうことが多いんです。でも「okanです」というと、だいたいは「ああ、okanさんですか!どうも!」とわかってもらえます。入社時の説明やオンボーディングでも、社内チャットではハンドルネームを使うように案内がありますね。
自分の好きなアバターの姿で仕事ができるとモチベーションが上がる
編集部
クラスターさんの特徴である「アバター勤務」について、もう少しくわしく教えてください。私は一般的な働き方をしていて、オフィスではもちろんリモートの会議でもカメラを通してお互いの姿を見ているので、具体的に想像できないところがあるんです。アバターの姿で働くというのは、どのような感覚なのでしょうか?
ねおりんさん(Unityエンジニア)
率直にいうと、自分の姿でもアバターの姿でも特に変わらないですね。私たちは、バーチャルの世界でアバター同士がコミュニケーションをとるサービスを提供しています。なので、アバターである自分もいたって自然だと感じていますし、なじんでいる状態だということもあると思います。
アバター勤務のわかりやすいメリットとしては、リアルな自分の外見やカメラに写る背景を整えなくてもいいことですね。朝起きてすぐにミーティングを入れても問題ありません。また、自分が気に入っているアバターの姿を人に見せられるというのは、テンションが上がるし、モチベーションも維持できると感じていますね。
okanさん(QAエンジニア)
私も同じで、アバターで働くことに対する違和感はないです。QAエンジニアの仕事は、バーチャルワールドの中で検証をしていくことですので、多くの時間をアバターで過ごすからでしょうね。
clusterの中では、自分を投影したアバターの姿で、ときには画面共有をして会話しながら仕事を進めています。リアクションなどの感情表現もしているので、リアルで話しているような感覚になることもあります。
たとえば8時間の勤務の中でも、みんな3時間くらいはアバターの姿で会話をしていますね。検証が終わって「うまく解決できたね」というときには、全員アバターの姿でハートを出すリアクションをして感動を共有するんです。すごくおもしろいカルチャーだなと思っています。
自由な発想で個性豊かなアバターを自分で設定
編集部
なるほど、イメージがわいてきました。ねおりんさんもokanさんもとてもかわいいアバターですが、テイストはかなり違いますね。アバターは、みなさんが好きなものをデザインして使っているんですか?
▼ねおりんさんとokanさんのアバター
ねおりんさん(Unityエンジニア)
そうですね。みんな自分の好きなアバターを使っています。しいていえば、代表が鳥のアバターを使っているからか、鳥をモチーフにしている人は多いですね。
▼クラスター社CEO加藤さんのアバター(加藤 直人さんTwitterより引用)
編集部
ちょっとユニークなアバターの方もいらっしゃるのでしょうか?
MIRINさん(広報)
私はピザのアバターです(笑)。気に入っているのでよく使います。
編集部
ピザ!?シュールですね(笑)。
MIRINさん(広報)
丸いピザが床に落ちているような見た目なので、ワールドに入ったときは、下を見ないと私がいるかどうかわからないんです(笑)。
あとユニークなところだと、代表の加藤が執筆した本をアバターにしている社員もいます。感情表現でページを大きく広げたりして、意外とかわいいですよ。
編集部
おもしろいですね〜。アバターだとなんだかすぐに打ち解けて仲良くなれそうで、コミュニケーション面でもいいかもしれませんね。
メタバース空間で仕事をすることも多い
ー編集部
みなさんの働き方としては、勤務中はアバターの姿でclusterのワールドに入り、そのなかで一緒に仕事をするイメージでしょうか?
okanさん(QAエンジニア)
QAエンジニアは、勤務中はいろいろなワールドを歩いていることが多いですね。ねおりんさんのようなUnityエンジニアも、確認のために同じワールドに入ることもあるので、アバターのまま一緒に仕事を進めたりします。Zoomのようなリアルのツールで話すこともありますが、アバターも自分の分身という感じなので、あまり変わらないですね。
ねおりんさん(Unityエンジニア)
開発に携わるエンジニアは、さすがに一日中clusterにいるというわけではありません。ただ、デイリーのミーティングはclusterでやるというチームもあります。私のチームもそうで、cluster内で30分ミーティングをして、時間が余ったらユーザーのワールドに遊びに行ったりしています。あと、ときには通話をつないだまま隣にいるような感覚で作業をすることもありますね。
編集部
先ほどclusterのワールドを散歩してみたのですが、自由に行動できる空間があって、実際に移動をしながら人と出会って会話をするという点が、Zoomなどとのコミュニケーションとは違い、空間やリアル感があると思いました。私もオンラインゲームが好きで、キャラクターが自分の分身のようになる感覚は経験があるので、その感覚で仕事をしているイメージだとしっくりきましたね。
クラスターでの働き方は裁量の大きいフルリモートがベース
編集部
クラスターさんの勤務体制としては、いまは100%リモートワークですか?
MIRINさん(広報)
はい。基本的にリモートワークが可能な仕事なので、九州や関西など、地方都市に住んでいるメンバーもいます。
ねおりんさん(Unityエンジニア)
エンジニアやデザイナーなどのクリエイティブ職は、基本はフルリモートで、出社は月1回だけです。
その月1回の出社は、コミュニケーションをとるために設定している感じですね。全体ミーティングである「全社会」で代表が話しているのを聞いたあとに、リアルで集まって開発部のミーティングをして、可能であればチームでディナーに行ってコミュニケーションをとっています。
▼社内MTGの様子
編集部
直接会うのが月に1回だと、リモートで一緒に仕事していても、初めて姿を見るような方もいるのではないですか?
ねおりんさん(Unityエンジニア)
そうですね。「声でねおりんさんだとわかりました」と言われることもあります。ある意味オフ会のような感じになっていますね。
編集部
採用のページを拝見すると、フレックスのコアタイムが水曜と金曜の12時半〜13時半の1時間のみとなっています。こちらは何か理由があるのでしょうか?
ねおりんさん(Unityエンジニア)
その時間に全社会があるというだけですね。それ以外は結構自由で、朝早くから動き出すメンバーもいれば、昼過ぎから仕事を開始するメンバーもいます。私はその日の一番早いミーティングに合わせて、勤務を始めることが多いですね。
okanさん(QAエンジニア)
エンジニアには朝型・昼型・夜型などいろいろなタイプがいるのですが、QAエンジニアは特に他部署のエンジニアと関わることが多いので、それに合わせて時間を調整したりしています。
全社会以外は基本的にフルフレックスなので、「通院のため3時間くらい抜けます」というケースも問題ありません。また、人によってはVR酔いをしてしまうこともあるので、休憩を挟みながらトータルで8時間くらい働くという調整もできます。状況に応じて勤務できるので、働きやすい環境だと思いますね。
子育てエンジニアも多く理解のある現場、柔軟に勤務調整ができる
編集部
状況に応じて自分で時間調整ができるとなると、お子さんがいるメンバーにとってはとてもありがたいことなのではと思いましたが、実際どうでしょうか?
ねおりんさん(Unityエンジニア)
お子さんがいるエンジニアが多くて、夕方にお迎えで抜けてまた戻ってくるようなこともできます。そのような働き方でも問題ないように、意識してドキュメンテーションの文化を徹底させています。
MIRINさん(広報)
実は、クラスターには子育てに参加している男性のエンジニアさんがかなり多いんです。「ここまでごく自然に育児環境を考慮する会社は他にあるのかな」というくらい自由な働き方ができますし、上司を含めたメンバーも自然に受け入れていますね。
これまで私もいろいろな業界にいましたが、そのなかでもクラスターが育児中でもダントツで働きやすいと思います。「赤ちゃんがちょっと泣いているので」「夕食の準備があるので」と自然に仕事を中断し、戻ることが出来る空気があります。
ただ、部署や仕事内容によっては、完全にフレックスというわけにはいかない業務の担当もありますので、そのあたりは事前に面接でざっくばらんに聞いてみてほしいですね。
優秀な人材が多くたくさんの学びがある環境
編集部
そのように自由に働ける環境というのは、個々のスキルが高くてセルフコントロールができるメンバーが多いからこそ実現できるのだと思います。実際に働いているみなさんとしては、どう感じていらっしゃるでしょうか?
ねおりんさん(Unityエンジニア)
手前味噌ではありますが優秀な人が多くて、私自身も学びが多い環境だなと思っています。会社のビジョンに対して共感しているメンバーが多いことと、みんなスキル的にも優秀なので、自律的に仕事を進められることも大きいですね。
会社全体のカルチャー的な側面だと、結構「インターネットっぽい」人が多いということも影響していると思います。テキストのコミュニケーションがしやすいというのはいつも感じていますね。
okanさん(QAエンジニア)
QAエンジニアは、未経験および経験が浅いメンバーが多い傾向があります。共通しているのは、これまでいろいろな職種を経験しているということですね。
私も、もともとは看護師をやっていて、そこからエンジニアに転職して現在に至ります。いろんな職業を経験してQAエンジニアになったからか、自分視点だけではなく「エンジニアではない職種の人ならこう感じるだろう」と考えられる人が、割と多いのかなという印象はあります。
あとは、自分でVRアバターを作ったり、ワールドを作ったりしていたような、メタバースというプラットフォームへの興味がある人が多いですね。ほかのサービスをプレイしてみて「clusterだったらもっとこうできるはず」とアウトプットできるメンバーが多いと思っています。
最終面接まで完全オンライン、クラスターの採用取り組み
編集部
先ほど、ねおりんさんはTwitterがきっかけでクラスターへ入社したと伺いました。面接もすべてオンラインで、アバターでの参加もOKと聞いているのですが、SNS経由やリファラル(紹介)での採用が多いのでしょうか?
MIRINさん(広報)
部署や職種によって異なりますが、そのようにして採用に至るケースも多いです。弊社は業界でもスキルのある人が集まっていて、そうした方々はTwitter上でも知名度があるので、実際にSNSでお声がけすることもありますね。
一方で、私が所属する広報部門のように自分から応募して、という職種ももちろんあります。いろいろな採用活動をしていますが、クラスターの特徴は、最終面接まで完全にオンラインでやることですね。
編集部
入社するまで、本当に一度もリアルで会わないんですか?
MIRINさん(広報)
そうです。例えば広報は会社の顔となる部署なので、実際に会ったときの雰囲気も重要ですよね。いくらオンラインでの面接もOKだと言っていても、ほかの企業だと「最終面談なので、やはり来社してください」となることが多いんです。
ただ、クラスターは本当に100%オンラインなので、自社のカルチャーを大切にしているんだと思いました。アバターでの面接も問題ありませんので、できれば顔を出したくないという人でも、安心して受けられる会社なんです。
また、冒頭でねおりんさんが少し触れていましたが、ロビースタッフという接客に近い職種もあります。実例で言うと、大きな怪我をしてしまって飲食店などのアルバイトができずに困っていた学生さんが、フルリモートでcluster内のロビースタッフとして働いてもらっています。
編集部
リモートワークと聞くと、エンジニアやデザイナーなどスキルが必須の職種が多い印象です。ただ、クラスターさんだとアバターの姿で接客をするという働き方もできるのですね。ロビースタッフは特別なスキルなどはいらないのでしょうか。
okanさん(QAエンジニア)
そうですね、ロビースタッフの業務は、初めてclusterを体験する方に向けて操作方法や遊び方を案内する「初心者ツアー」の実施や、困っているユーザーさんのサポート、また迷惑行為をするユーザーの対応などがメインなのでプログラミングスキルなどは不要です。
編集部
もともと接客が得意な人がリモートで活躍できる環境があるというのは、雇用面からしても新しい試みで、とてもすばらしいと思いました。
求人一覧のページを見ると、エンジニアはもちろんマーケティングやロビースタッフ、さらにはインターンの募集など本当にさまざまな職種の採用を行っておられますね。
(現在の採用状況はこちら:https://herp.careers/v1/clustervr)
クラスターが求める人材像とは
編集部
現在は事業を拡大していくフェーズということで、これからも多くの採用を進めていくかと思うのですが、「こんな人と一緒に働きたい」という希望はありますか?
okanさん(QAエンジニア)
一般的にQAエンジニアの採用ではスキルを見られがちだと思いますが、クラスターではその一面だけで判断することはありません。社内のどの部署とも話す機会が多い仕事なので、円滑なコミュニケーションも求められますし、当たり前のようで難しい「報告・連絡・相談」ができる人が望ましいですね。人と接する能力がベースにある方が、向いているかなと思っています。
QAエンジニアはよく「バグを見つける人」だと思われがちです。でも、それだけではないんです。ユーザーの視点で「プレイしていてこういうサービスがあったら喜ぶはず」とか、マーケターの視点で「こういうサービスがあると提携企業も喜ぶ」とか、いろいろな視点を持つことが大事ですね。
もちろん数字を追うことも大切ですし、ひとことで「品質」といってもいろんな要素があるので、それらすべてに対してアンテナを張っている人がいいかなと。あと、根底の部分では「clusterのことをすごく愛してくれる人」というのが一番重要だと思っています。
ねおりんさん(Unityエンジニア)
Unityエンジニアからの意見ですが、私たちは「10億人が使うプラットフォーム」を本気で作ろうとしているので、その目標に向かって共感してやっていける人にきてほしいです。
プラットフォームの作成は、ただコンテンツを作るのとは異なり、ユーザーがコンテンツを作るための土台作りだといえます。自分たちがコンテンツを作るだけではない難しさはありますが、もちろんおもしろさもあるので、そういうことを楽しめる人がいいですね。
cluster上で自分たちがコンテンツを作る楽しみだけでなく、ユーザーが自らコンテンツを作って楽しんでくれる喜びを、共有できる方と働きたいなと思います。
編集部
ありがとうございました!
■取材協力
クラスター株式会社:https://corp.cluster.mu/
採用情報:https://herp.careers/v1/clustervr