例文でわかる円満な退職の伝え方

退職は、その手順やマナーに気を付けさえすれば、円満に実現できることがほとんどです。

逆に、振る舞い次第では会社に迷惑を掛けたり、トラブルを招いたりするケースもあります。場合によっては、退職後の自身のキャリアにも影響を与えかねません。

この記事では、退職の伝え方やタイミング、上司とのやり取りなど、退職にまつわるポイントの一つ一つを丁寧に解説します。

退職意思の伝え方のポイント

退職するときの伝え方のポイント

円満退職のために、退職意思を伝える際は以下のポイントを抑えましょう。

▼退職するときの伝え方のポイント

  • 退職希望日の1ヵ月前までに意思を伝える
  • 直属の上司に口頭で伝える
  • 曖昧でなくハッキリと伝える
  • 退職理由は会社側から引き止められない内容にする
  • 退職理由にネガティブな内容は入れない
  • 退職希望日は引き継ぎ期間などを考慮して決める

    退職希望日の1ヵ月前までに意思を伝える

    会社を円満に退職するためには、早めにその意思を示すことが基本です。

    法律では2週間前までの申請で退職が認められますが、ぎりぎりでの意思表示は後任者への引き継ぎや、取引先との関係性にも支障をきたしてしまう恐れがあります。退職の1カ月前までには伝えておきたいところです。

    健康面の不調などでやむを得ず退職直前の報告になってしまった場合は、「急な話で申し訳ありません」といったお詫びの言葉を忘れないようにしましょう。

    直属の上司に口頭で伝える

    退職の申し出は、まずは直属の上司に行うことが筋です。さらに上の役職の人にいきなり相談すると、上司からは不信感を抱かれてしまうこともあり得ます。上司の管理能力が問われてしまう事態にも発展しかねません。

    電話やメール、LINEではなく、口頭で直接伝えることも社会人のマナーです。

    体調不良などやむを得ない場合を除き、2人きりで落ち着いて話せる機会をつくってもらいましょう。そのために、事前にアポイントメントをとっておくべきでしょう。

    曖昧にせずハッキリと伝える

    退職を伝える際には、ハッキリとした意思表示が重要です

    「辞めようか悩んでいる」といった曖昧な表現では、既に決断したことなのか、それともまだ迷っているのかと、上司を混乱させてしまいます。解釈のすれ違いによるトラブルも招きかねません。

    退職するという結論をしっかりと提示することが望ましいです。固い意思を示すことは、引き止めの防止にも繋がります。

    会社側から引き止められない退職理由にする

    退職する際に考えられる問題が「上司からの引き止め」です。

    会社に引き止められやすい退職理由の一つが「就業環境や待遇への不満」です。

    このパターンでは、「改善するから、もう少し頑張ってみようよ」と上司に引き止められる可能性があります。改善を提案された場合、退職理由が成り立たなくなる可能性があります。

    この時の対策としては、例えば新しい業種への挑戦など「今の会社ではできないこと」を理由に強い意思を示すことです。

    退職理由にネガティブな内容は入れない

    退職理由には、ネガティブな内容を避けることが得策です。

    「人間関係に不満がある」といった発言は、会社との関係性を損ねさせかねません。話を聞いた上司もいい気持ちはしないはずです。退職までの在職期間において、自分自身で働きにくい環境をつくってしまうことにも繋がり、メリットはあまりないでしょう。

    ネガティブな理由は、「新しい業種に挑戦したい」といったポジティブな言葉に変換して伝えるよう心掛けましょう。

    気持ちよく送り出してもらうためには、会社側の思いも考慮した振る舞いが大切です。

    退職希望日は引き継ぎ期間などを考慮して決める

    突然、「今日で辞めます」と伝えても、会社側は対応が困難です。後任者への引き継ぎや取引先への挨拶に充てる時間がないため、会社の不利益につながる可能性もあります。

    退職希望日は余裕を持って伝えることが重要です。

    もちろん、会社側にも都合があるため、退職者の希望が全て通るわけではありません。「◯月◯日に辞めます」ではなく、「◯月◯日に退職したいです」と希望を伝えた上で、上司と相談しながら退職日を設定していきましょう。

    【例文あり】上司への退職の伝え方・切り出し方のNG集

    上司への退職の伝え方・切り出し方のNG集

    ここでは、上司に退職を伝える際の具体的なNG例を解説します。

    退職理由のNG例文①

    仕事量の多さに見合わず給与が少なく、大変不満があります。会社の将来性にも希望が持てないので、退職することにしました。

    待遇面の不満を理由にするケースです。言っていることが事実でも、上司や会社の反感を買ってギスギスしないためにも、ネガティブな本心は打ち明けないようにしましょう。

    また、このような場合、不満が解消されるような改善提案をされて引き止められることも考えられます。

    退職理由のNG例文②

    この会社で学びたかったスキルは習得できました。そろそろ次のステップに進みたいと思い、転職することにいたしました。

    会社を腰かけのように考えていたと捉えられてしまいます。自分本位な理由を並べても、残りの在職期間で職場に居づらくなるだけで、メリットがありません。

    退職理由のNG例文③

    この度、退職することにいたしました。今後は〇〇社で新たなキャリア形成のため昇進してまいります。今までお世話になり、本当にありがとうございました。

    前向きな理由で感謝の気持ちも述べている点は良いですが、転職先を伝える義務はありません

    不要な詮索や干渉を防ぐためにも、転職先は言わない方が無難です。転職先が決まっていても具体的な会社名を出さず、「これから検討します」くらいに留めておいた方が無難です。

    【例文あり】上司への退職の伝え方・切り出し方のOK集

    上司への退職の伝え方・切り出し方のOK集

    退職理由は、就業環境や待遇、仕事内容への不満から、人間関係の悩み、夢や目標を叶えるためなどと、人によって異なります。家庭の事情や健康面の問題でやむを得ず退職を決断する場合もあるでしょう。

    お勧めするのは、ネガティブな内容をポジティブに言い換えることです。「今の会社では実現できない」というニュアンスにフォーカスするのではなく、「別の業種に挑戦したい」などと前向きな理由を述べ、その熱意をアピールするよう意識しましょう。

    一方、家庭の事情や健康面など、やむを得ない事情である場合は正直に伝えて構いません。上司もその切実さを理解してくれるはずです。

    退職理由のOK例文(ネガティブな内容をポジティブに言い換える場合)

    • 就業環境や待遇や仕事内容に不満がある
    • 仕事内容に不満がある
    • 人間関係に問題がある

    上記に当てはまる場合は、ネガティブ面をそのまま伝えてもあまり得はありません。

    むしろ、会社との関係性が悪化してしまうというリスクがあります。

    また、「改善するから、まだこの会社にいてくれないか」と引き止めに合う可能性もあります。スパッと辞めたいのであれば、ポジティブな理由で退職意思を伝えるといいでしょう。

    現在のBtoCの業務は、お客様の反応が直接見られてやりがいを感じています。ただ、働いている中で、BtoBでより大きな事業に携わってみたいという思いが湧いてきました。

    大学時代の友人から、ベンチャー企業の立ち上げに協力してくれないかと相談がありました。この会社で培った経験を生かし、自分の力を試したいです。

    金融業界に興味を持っていた中、ちょうど銀行の中途採用の募集をしているという話を聞きました。年齢的にも、転職をできるチャンスは今後限られてくると思います。今、退職を決断するしかないと思いました。

    このようにポジティブかつ、「会社を辞めなければ実現できないこと」を伝えると引き止めに合いにくいです。

    退職理由のOK例文(そのまま伝える場合)

    • スキルアップ、夢への挑戦
    • 家庭の事情
    • 体調不良

    このような場合は、正直な退職理由を伝えれば良いでしょう。会社への不満ではないため、波風を立ててしまうことはありません。

    元々、テレビ業界で番組制作に携わりたいと思っていました。今の仕事にもやりがいを感じていたのですが、幼いころからの夢を叶えたいという思いが抑えきれなくなりました。

    両親が高齢になり、体調面で不安もあります。将来の介護も考慮し、地元に帰って働きたいと思います。

    昨年末から体調が芳しくなく、何度か通院もしました。医者からは◯◯と診断されました。一度、自身のワークライフバランスを見直したいと思います

    もちろん、家庭の事情や自身の体調については、プライベートな話題ですので、話したくないことまで話す必要はありません。

    退職を伝えた時に上司から引き止め・退職拒否をされた時の対策

    退職を伝えた時に上司から引き止め・退職拒否をされた時の対策

    円滑に手続きを進めるため、引き止められたときの対策を講じておくに越したことはありません。その一部を紹介します。

    引き止められたとき

    まず大事なのは、退職への強い意志を示すことです。決意が揺らいだり、悩んでいたりするそぶりを見せれば、「引き止められるのではないか」と思わせてしまいます。

    上司が慰留に使う言葉には決まり文句があるので、想定問答をイメージしておくことも効果的です。

    今の職場に不満があるのなら、その改善に努めたいと思う。

     上司

    不満ではなく、新しい仕事に挑戦したいという思いでの決断です。

    君は会社に必要な人材だ。

     上司

    そう言っていただけて大変光栄です。ですが、さんざん悩んだうえでの決断なので、退職の意思が変わることはありません。

    退職を拒否されたとき

    退職を拒まれた場合は、まずはその理由を尋ねましょう。退職を拒否された理由が会社の就業規則から逸脱しているものであれば、従う必要はありません。

    規則に則り、着々と退職手続きを進めましょう。万が一のトラブルを回避するためにも、事前に退職に関する規則を把握しておくことも大切です。

    どうしても退職がスムーズにいかない場合は、労働組合や弁護士に相談する選択肢もあります。場合によっては、退職代行サービスを使うことも視野に入れていいでしょう。

    退職を伝えるタイミングは繁忙期・人事異動の期間を避ける

    退職を伝えるタイミングは繁忙期・人事異動の期間を避ける

    退職の意思を伝えるタイミングは、職場が忙しくない時期にするのが望ましいです。繁忙期に退職を切り出されても、時間がないため、まともに取り合ってもらえない可能性があります。

    業務がある程度落ち着いていて、上司がじっくりと話を聞いてくれるタイミングを見極めましょう。

    また、人事異動が決まった直後も避けるべきです。人員配置の再調整が必要となるため、会社にかける負担が大きくなってしまいます。

    進行中の大型プロジェクトなどがある場合は、ひと段落してから切り出すことが一般的です。仕事を途中で投げ出してしまうと、プロジェクトの成否にも影響を与えかねません。

    退職を伝えた後にやること

    退職を伝えた後にやること

    退職にまつわる手続きは、その意思表示だけで全てが終わるではありません。良好な関係性を壊さず、自身にとっても気持ちよく退職できるように手を尽くしましょう。

    業務の引き継ぎ

    退職後、会社に極力迷惑をかけないようにするためには、丁寧な引き継ぎが欠かせません。

    後任の同僚へは、口頭でのやりとりだけでは伝わりきらないことがほとんどなので、マニュアルとして資料を残しておく必要があります

    引継ぎには一定の時間がかかります。伝える内容に不足を生じさせないために、退職日の日程を上司とよくすり合わせるよう心掛けてください。

    取引先や先輩・同僚への挨拶

    お世話になった取引先への挨拶は忘れず行いましょう。

    とはいえ、退職の挨拶の方法やマナーについては、知らないことも多いはず。そんなときは、上司に頼ることも一案です。取引先と親しい上司がいる場合は、どのような振る舞いが望ましいか、的確な判断ができることでしょう。

    もちろん、社外だけではなく社内に義理を通すことも大事です。指導をしてくれた先輩や、一緒に働いてきた同僚にも感謝の思いを伝えるようにしましょう。

    ただ、全員に対面で伝えることは、会社の規模が大きいほど難しいと思います。相手が多忙な場合などは、断りを入れたうえでメールや電話で伝えてもOKです。

    有給休暇の消化

    有給休暇は会社員の大切な権利です。全て消化したうえで退職を迎えたいところですね。

    そのためには、退職日はもちろん、転職先の入社日も意識する必要があります。

    有休を使い切れない場合、買い取ってくれる制度を導入している会社もあります。上司や担当部署に確認しておきましょう。退職日の後には、有休は使えなくなるので注意してください。

    転職活動

    急な退職になってしまった場合、人によっては転職先が決まっていないケースもあるでしょう。

    失業した状態で就職活動に取り組むのは、精神的にも楽なものではありません。焦りから、納得できない会社への入社を決めてしまう事態にも繋がりかねません。

    転職活動は、早めに始めるに越したことはないです。履歴書の準備や企業研究など、在職中でもやれることはたくさんあります。時間を見つけながら、少しずつでもいいので活動を進めておくことが大切です。

    退職願の作成・提出

    「退職願」「退職届」「辞表」、この3つは似て非なるものです。提出が求められる書類は会社によって異なるので、要チェックです。

    「退職願」は会社との労働契約の解除を申し出るものです。会社の承諾を得てから事務手続き上の記録として出す「退職届」とは別物で、必ずしも提出が求められる書類ではありません。

    会社の規則や上司からの指示で必要となった場合に、作成するようにしましょう。定められたフォーマットがあるのならそれに準拠し、ない場合は自分で用紙を準備して執筆しましょう。退職理由は「一身上の都合により退職させていただきます」で構いません。提出期限が設けられている場合は、厳守してください。

    ちなみに「辞表」は、会社役員が役を離れる際や、公務員が組織を辞める時に提出する書類になります。一般社員における「退職届」に該当します。

    >>退職の準備と同時に、入社準備もしていきましょう